【試乗】3億超えの怪物EVハイパーカーを公道のワインディング貸し切りで爆走! 衝撃しかないピニンファリーナ・バッティスタの走りとは (3/3ページ)

ある意味レーシングカーを超えている

 せっかくクローズドコースを走っているのだから、このトラックモードを試さない手はない。日常的にはトラックモードはサーキットに制限されるべきモードといえ、一般道での使用は控えるべきで、今回こうしたクローズのコースを準備してもらえたことで、それを試すことができたことは幸運である。

 走り始めからアクセルを全開にすると、強烈な加速Gで4輪をやや空転させながら一気に速度を上げる。ただ、その際に感じる加速Gは、ほかのEV車とは異なりドライバーやパッセンジャーに乗る者にとってあまり苦痛を与えない。たとえば、SUVモデルなど重心の高いクルマで4輪駆動のハイパワーEVをフル加速させると、ピッチングモーメントと加速Gが同時に脳に加わりブラックアウトしそうな気もちの悪さを体感するのだが、バッティスタは重心、ヒップポイントが低く、クルマの重心にかかるピッチングモーメントをドライバーが感じないで済むため、速いレーシングカー、フォーミュラカーに乗っているような後方への加速Gしか感じない。それはレーシングドライバーである筆者にとってはとても自然なものに感じられた。

 このまま加速していくと、車速は一気に高まり、あっという間に200km/hをオーバーしてしまう。平坦地であれば 0-200km/hは10秒ちょっと。この箱根ターンパイクの上り区間でさえ最高242km/hの車速をメーターで読み取れるほどのスピードを示した。車両重量が2020kgもあるにもかかわらず、これほどの加速動力性能があることは、ある意味レーシングカーを超えているといっても差し支えないといえるだろう。それでいて室内は静かでエアコンディショニングも効いて快適であり、パッセンジャーとの会話も楽しめるのだから申し分ない。

 コーナーでは高いグリップ力が車両姿勢を安定させ、オンザレールのライントレース性を示す。タイヤはミシュランのパイロットスポーツ・カップ2を装着し、21インチの大口径タイヤで路面を確実に捉えているが、車速が上がれば上がるほどダウンフォースが高まり、横Gが強烈にかかってくるのがわかる。そのコーナリング限界の高さを見ても、とても2トンもあるクルマとは思えないほどである。

 時速200km/h前後でターンパイクを駆け上がっていけば、普段走っているターンパイクとはまるで景色が異なり、フラットに思えていた路面の各所が非常にバンピーで車体を弾ませることがわかる。それでもサスペンションは路面をしっかり捉え、ダウンフォースの作用と荷重の大きさもあってタイヤが空転することはなかった。

 また、ドライバーが感じないまでも4輪のモーターは個別に駆動力が細かく制御され、トルクベクタリングを積極的に行ってクルマのライントレース性や安定感を獲得しているのである。

 通常であれば30分ほどかかるターンパイクを、その半分以下の時間で下り、そして上ってくることができてしまった。クルマを降りてブレーキの温度を調べてみると、フロントは350度、リヤは270度にまで達していた。通常のEVならば減速はほとんど回生により行うため、ローター温度はほとんど上がらないのだが、クローズドコースでこのような全開に近い走行を繰り返すと、ディスクブレーキも相応に働かせざるを得ないものだと思われる。

 ただ2020kgのクルマをこの速さで走らせ、モーター回生がなければ、ブレーキローターの温度はおそらく600度近くに達していただろうと思われる。それを考えれば、残りの300度分はバッテリーに回生されていたと考えられる。一方で、電気エネルギーのデプロイとリジェネレーションを繰り返すバッテリーは温度管理が難しいといわれているが、水冷化とバッテリーレイアウト等により30度前後の低温に保たれていることがバッテリー監視モニターによって見て取ることができていた。

 このように、バッテリーをいかに低温に管理するかというところがEVハイパーカーの極めて重要な要素といえ、ピニンファリーナはその部分においても十分な機能を獲得していると言えるのである。当然、空気の流れの制御が重要で、ラジエターにうまく空気を導き、そのクーリングエアがうまく車外に放出されるようなエアフローを導かなければならないわけで、自慢の風洞がそういった面でも役立っているといえるだろう。

 今回試乗してみて、このクルマの持つ底知れない走行性能を、たとえば富士スピードウェイやニュルブルクリンクサーキットなどでも試してみたいという気にさせられた。ピニンファリーナとしても、そうしたところに焦点を当てることの重要性は感じているようだが、現状はまだタイムアタックなどはしていないそうだ。

 一方で、所有者となるオーナーは、サーキットを走らなければこの走行性能を知ることができないため、ほかのスーパーカー、ハイパーカーなどに見られるような、サーキットを走ったら保証の対象外になるという制限はなく、ブレーキパッドやタイヤなど消耗品を除けば、すべての機能はサーキットを走っても保証されるというのは流石だなと思える部分だ。

 ピニンファリーナEVハイパーカーであるピニンファリーナ・バッティスタの価格は3億5000万円といわれている。およそこれを手にするユーザーがどれほどこの日本に居るのかわからないが、もしかしたらいつかどこかのサーキットで見かけることがあるかもしれない。その走り、また叩き出されるであろうラップタイムが大いに気になるところだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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