米と伊の一流ブランドがコラボした奇跡のクルマ……かと思ったら大ゴケした「クライスラーTCバイ・マセラティ」 (2/2ページ)

あの手この手でテコ入れするも大失敗

 また、3万3000ドルという値段も販売の足を引っ張った模様で、似たようなコンセプトのクライスラー・ルバロンのほぼ2倍となると、モパーファンといえども躊躇するのは無理もないところ。

 で、アイアコッカはKカーのテコ入れだったはずのクライスラーTCバイ・マセラティをさらにテコ入れしなければならない羽目に。500台限定でヘッドカバーにマセラティの文字が鋳込まれたエンジンを搭載したモデルを作ったのですが、ピストンはマーレ、クランクシャフトはカリフォルニアのクレーン、タービンはIHIというオールスター! しかもバルブヘッドをコスワースが16バルブへとカスタムという、いかにもデ・トマゾ好みなチューニングが施されていました。

 が、それでも2.2リッターターボのパンチ力はアメリカ人には効き目が薄かった。ついにアイアコッカが当時の提携先だった三菱から3リッターのV6エンジンを仕入れたものの、起死回生に至ることなく生産中止の憂き目となりました。

 当初、月販5000~1万台を目論んでいたのですが、蓋を開けてみれば総生産台数7800台(1989~1991)という目も当てられない売上げ。フォンドメタル製オリジナルメッシュホイールを履かせたり、ネプチューンの鉾をクライスラーの五角形マークのなかに入れたり、あるいはヨーロッパメイドらしい艶感のクロームとか、決して出来栄えは悪くないのに!

 おそらくは、逆パターンのほうが良かったのかもしれませんね。つまり、クライスラーのエンジンでなく、マセラティのカリカリチューンをルバロンみたいな大人っぽいボディにぶち込むってアイディア。

 切れ者のアイアコッカやデ・トマゾの悪知恵をもってしても、クライスラーTCバイ・マセラティはどうにもパッとしなかったとは、なんとも切ないお話です。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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