最高速度の引き上げによる効果にも期待できない
そして高速道路における大型トラックの最高速度が、時速80kmから90kmに引き上げるという政令も出されたようだ。それもまた、迫り来る「2024年問題」への対策のつもりなのだろう。もちろん、それの効果を素直に期待している運送会社やドライバーは、ほとんどいない。最高速度を引き上げれば、荷物は早く届く。そんな子供のような計算をしているのだろうが、それは暗に荷物のことしか考えていないという結果にたどり着く。働き方改革だとかドライバーファーストだとかいいながら、荷物の到着を優先しているにすぎないのだ。最高速度を引き上げることで燃費は悪くなり、そのぶん売上も減る。そして、トラックドライバーの精神的負担は増える。そんなことすら考えられないような国のやり方に、運送会社やトラックドライバーが感謝をするはずはないだろう。
そもそも、荷主がつねに上の立場であるところに問題がある。仕事を発注している側だからこそ優位に立つのは当然であるのだが、現場では無理難題がまかりとおっているのだ。トラックドライバーは目的地まで荷物を運び届けることが仕事であるにもかかわらず、荷造りや倉庫内への搬入まで担っているのが現状なのである。
食品の場合は、製造年月日に合わせた「先入れ先出し」納品が基本となる。つまり倉庫に搬入する場合は在庫をすべて出し、運んできた製造年月日が新しいものを奥に入れる。そして、古いものから先に出荷できるように、在庫分を最後に入れる。これらの作業はもちろん倉庫側の仕事であるはずなのだが、トラックドライバーに押し付けているケースが多い。それに対して文句をいおうものなら、出入り禁止となって仕事を失ってしまう。もちろん、その作業によって生じる労働力や時間の消費についての賃金は、1円たりとも発生しない。
さらに冷蔵庫関係の仕事では、いまだ手積み手降ろしの現場も数多く存在する。限られたスペースを最大限に生かすべく、専用のパレットを使用している冷蔵庫が多いためだ。もちろんそれは冷蔵庫側の事情なのだが、立場の弱いトラックドライバーはそれに従うしかない。もちろん労力と時間を消費してしまう手作業だからといって、割り増し料金になるわけではない。筆者の過去の経験から、積み下ろしにかかる時間は大型一車なら2時間ほどだろうか。パレット作業であれば、30分以内に片付くだろう。もちろんいずれもスムースに進めばの話であるが、それだけの違いが生じてしまうのだ。
荷物ができるまでの待機時間、そして荷物を下ろすまでの順番待ち。さらには手作業によって時間を消費してしまうと、次の仕事にも影響してしまう。到着が遅れてしまうとペナルティが課される現場も存在するため、ドライバーは急がざるをえなくなってしまうのである。その結果、無謀な運転にも結びついてしまうのだ。
それらにおけるすべての問題点は、トラックドライバーの労働時間を短縮し、高速道路の最高速度を引き上げることで解決できるようなものではない。そもそも高速道路を利用できるような運賃が出ず、寝る間を惜しんで一般道を走行している大型トラックも数多く存在する。そう、なによりも荷主ファーストの姿勢を変えなくてはならないのだ。
まずは適正運賃が支払われ、不要な作業や待機時間がなくなる環境づくりを目指すことが、物流危機を乗り越えるために大切。そのことに国が気付いてくれる日は、今後訪れるのだろうか。藁にもすがるような思いであるが、日本を支えてくれているトラック物流業界の改革を期待したい。