この記事をまとめると
■トラックの変速機は乗用車と比較して段数が多い
■12速などの変速機を搭載する車両も珍しくない
■トラックの特性や使用用途によってギヤの数が変わる
大型車は発進時には大きな力が必要になる
乗用車の変速機はMTとAT、さらにはCVT(無段変速機)もあるが、その変速段数はご存じだろう。MTは5速が一般的で、高性能なモデルには6速あるいは7速なんてモノもあるが、操作性からいってこのあたりが限界だ。
それに対してATは燃費改善を目的に4速ATから多段化され、気付けば8速から10速までの多段ATが登場している。
変速機の構造が違えば、単純に多段化された方が偉い、なんてことはないけれど、トラックでは9速、12速なんて変速機は珍しくない。トラックの変速機の変速段数が多いのには、いくつか理由がある。まずトラックは大きく車重が重いだけでなく、荷物や重機などの重量物を運ぶため、総重量が8~25tくらいになる。重ければ、発進時には慣性の法則から大きな力が必要になるし、登坂時にも重力に逆らうだけの力が必要になる。
しかし、発進すればそれほど大きな力は必要とせず、空荷や積載重量が少ないとき、燃費や巡航速度を高めるためにエンジン回転を調整する必要が大きくなる。そのため、トラックの変速機には大きな変速比の変化量が求められる。
CVTのように変速比の幅が大きい変速機もあるが、駆動力をベルトの摩擦で伝えるCVTは、駆動損失やトルク容量(どれだけの力を伝えられるか)の面からトラックには向いていない。そのため、歯車の組み合わせを切り替える変速機を用いるが、これはエンジンの常用回転域に合わせてステップ比(各ギヤの変速比の差)が定まるから、あまりに各ギヤの変速比の差が大きいと使いにくく、燃費も低下することになってしまう。とくに大型トラックのような大きなディーゼルエンジンは、構造上高回転までまわすことはできないから、エンジンの常用回転数域がかなり狭いのだ。
そのため、トラックはギヤを多段化するか、副変速機を組み合わせて多段化する方法が取られる。副変速機はロードバイクやMTBなど、スポーツ用の自転車に備わるクランク側の変速機のようなものだ。主たる変速機が3速だとしても、それに副変速機をひとつ追加すると6速になり、もうひとつ追加すれば12速にすることができる。トラックの1速は坂道発進用で、通常は2速で発進するのが一般的だが、副変速機を使うとたくさん荷物を積んでいるときや登坂路での加速は1速ずつシフトアップして、平地では1速飛ばしや2速飛ばしのシフトも可能になる。
ゴー&ストップが少なく、平坦な直線路をひたすら走るような北米のトレーラーは、手動で18速や20速の変速機を操作して巡航するが、日本ではとても使いきれない。
日本や欧州ではAMT(自動変速MT)が主流で、副変速機も自動で制御するため、12速あたりが一般的になっている。さらにトラクターなどは牽引用の低速ギヤをもつ車種もある。
変速機はエンジン回転とトルクをトレードするトルク変換器のようなものだ。自車の重量よりはるかに重い荷物を運ぶトラックにはたくさんの変速段数が欠かせないのである。