サイズとコストに厳しい軽にはディーゼルとロータリーは合わない
こうした状況は、軽自動車に求められる経済性や限られたボディサイズに起因しているといえる。補助金の給付をあてにできるBEVはともかく、クリーンディーゼルやハイブリッドはコスト面から難しいのだ。
たとえば、トヨタ・ヤリスは3気筒エンジンを積んだガソリンエンジン車とフルハイブリッドを設定するコンパクトカーだが、同等グレードでのパワートレインによる価格差は約16%増しとなっている。
※参考
Z(ガソリンエンジン車FF)215万4000円/Z(ハイブリッドFF)249万6000円
G(ガソリンエンジン車FF)195万3000円/G(ハイブリッドFF)229万9000円
軽自動車のメインストリームとして人気のスライドドアをもつスーパーハイトワゴンにおいては、上級グレードでは200万円を超えることも珍しくない。フルハイブリッド化により、ここからさらに2割近くも価格が上昇してしまっては、ユーザーが受け入れがたいであろうことが、軽自動車のフルハイブリッド化を阻んでいる。
とはいえ、いま以上の燃費性能を追求するとなれば、電動領域の広いフルハイブリッド化は避けられないだろう。その場合、トヨタやホンダの登録車が採用するシリーズパラレル式の複雑なハイブリッドではなく、日産e-POWERやダイハツe-SMART HYBRIDのようにエンジンは発電に専念するシリーズハイブリッドが軽自動車にはマッチするだろう。
駆動用バッテリーの搭載量を最小限としつつ、エンジンルームに収まるよう発電用エンジンを2気筒にするなどの工夫をすれば、軽自動車の価格帯にマッチしたフルハイブリッドは生み出せるかもしれない。
コンパクトなエンジンを用いたシリーズハイブリッドといえば、マツダのプラグインハイブリッドカー「MX-30 Rotary-EV」において復活させたシングルロータリーエンジンを使うのも有効に思える。
ここで大きな壁となるのが日本におけるロータリー係数といわれるものだ。ロータリーエンジンはその構造を踏まえて、排気量を1.5倍換算することになっている。軽自動車の規格ではエンジン排気量は660cc以下となっているので、ロータリーエンジンを載せるには440cc以下の排気量で作らなければならない。
マツダが復活させたロータリーエンジン「8C」型の排気量は、830ccとなっているため当然ながらそのまま載せたのでは軽自動車の規格に合致しない。逆にいうと、ローター幅を半分に薄くすれば排気量的には軽自動車規格に収めることができる。もっとも、マツダが独自に軽自動車を生産していないことを考えると、軽自動車規格に収まるロータリーエンジンを開発するインセンティブはなく、ロータリーエンジンを積んだ軽自動車は机上の空論でしかない。
ディーゼルエンジンについても同様で、軽自動車向けの専用エンジンを開発するインセンティブは、どこのメーカーにも存在しないだろう。
じつは1990年代にはダイハツのリッターカーのシャレードに、排気量993cc・3気筒のディーゼルエンジン(CL)が採用されていた。その当時、軽自動車の規格が550ccから660ccに拡大されたこともあり、シャレードのディーゼルエンジンを2気筒にしてストロークかボアを少し削れば、軽自動車に搭載可能ではないかという話もあった。
しかしながら、現在のクリーンディーゼルに求められる排ガス浄化性能を満たすには、DPFや尿素SCRシステムなど高コストな装置が必要となる。このコストを軽自動車に求められる価格帯で実現するのは非常に難しいと言わざるを得ないだろう。
余談ながらコストの話をすると、補助金がなくなってしまえばBEVの軽自動車も商品企画として成立しないのでは? と思うかもしれないが解決策はある。ユーザーが航続距離という利便性を割り切って捉えることで、必要最低限のバッテリー搭載量で十分と判断するようになれば、現在の軽BEVと比べ、かなりの価格ダウンは可能だろう。