スポーツ志向のカスタマーから圧倒的支持を受けるチャレスト
ギヤボックスが横置きされていたために、まだまだ改良の余地が残ったF355のヴェンチュリートンネルと比較すると、360シリーズのそれはより理想的な形状に改められ、リヤビューから確認できるディフューザーも、さらに高い機能性を持つものへと進化した。
F355で、というよりもさらにその前身となった348で確立された鋼板によるセンターセクションを核とするセミモノコック構造も、360では採用が見送られ、その基本構造体はアルミニウム製のスペースフレームに回帰することになった。
フェラーリが360モデナの発表時に明らかにしたデータによれば、そのねじり剛性値はF355比で約44%、曲げ剛性値は約42%の向上を果たしていた。
スパイダーではルーフからリヤピラー内を貫通してテール部にまで連続していた構造材が廃止されたため、ねじり剛性はモデナ比で45%ほどの低下という結果になったが、実際の走りでそれをハンデと感じるシーンは少ない。その理由は、そもそものベースであるモデナが、当時としては非常に高い剛性を有していたからと評してもよい。
ミッドに搭載されるエンジンは、90度のバンク角が設定された3586ccのV型8気筒DOHC5バルブ。F131型と呼ばれるこのエンジンには、さらにさまざまな可変機構が導入され、吸気管長の切り替えシステムを始め、カムシャフトの作用位相切り替え、吸気側のバルブタイミング切り替えなどが新採用されたことで、ピークパワーの追求と実用域での扱いやすさを両立している。扱いやすさという点では、F355で新採用されたF1マチックがさらに進化し、シフトダウン時のブリッピング機能などが追加されたことも大きな話題だった。
V型8気筒エンジンの最高出力は400馬力、最大トルクは373Nmという数字。最高出力では20馬力のエクストラを360は得た計算になる。
前後のサスペンションは、これもまたスペースフレームやボディと同様にオールアルミニウムに近い構造だ。減衰力可変型のダンパーは、ザックスと共同開発されたものであることなど、シャシーにおいても見るべき点は多い。
専用車両の360チャレンジを使用したワンメイクレース、「360チャレンジ」も年々その盛り上がりを高めてきたが、フェラーリは360シリーズの最終進化型として、このチャレンジ用車両と同様に、カーボン製のエアロパーツや425馬力にまで強化されたV型8気筒エンジンを搭載した「チャレンジストラダーレ」を2003年に発表。こちらもさらにスポーツ志向の高いカスタマーから圧倒的な支持を得るに至った。
F355がすでにクラッシック・フェラーリとして扱われ、別の価値が生み出されるなか、いまもっとも購入しやすい8気筒フェラーリといえば、あるいはこの360シリーズはベストな候補といえるのではないだろうか。