市販品とは性能も材質もまったく違うレース用タイヤ
■溝にはグリップ性能を高める役割もある
もうひとつ、タイヤの溝には大事な役割があります。それは路面をつかむように捕らえてグリップの助けになるという点です。
市販車用のタイヤは、グリップすることが第一の役割ですが、その一方ですぐ摩耗してしまわないように、適度な硬さのゴムが使われています。そのため、路面の凸凹を硬さで弾いてしまわないように、溝を設けることで適度なコシを持たせています。
そしてそのコシとともに、溝のエッジで路面の凸凹をキャッチして、全体でグリップ力を高めています。
ちなみにこのエッジの働きはスタッドレスタイヤでより有効に使われていて、細かく刻まれた無数の「サイプ」という溝のエッジがツルツルの氷の表面を捕らえてグリップの助けになっています。
■ではレース用のタイヤはなぜツルツルなの?
溝がグリップの手助けをするなら、もっともグリップ性能が重要になるレース用のタイヤに溝がまったくないのはなぜでしょう?
それは、タイヤの材質と構造が市販車用のタイヤとは大きく異なるからです。
レースがおこなわれるサーキットの路面は、一般の公道よりも粒が細かく均一なアスファルトが敷かれています。そして表面の凸凹を極力少なく舗装されているので、路面自体が高いグリップ性能を持っています。
そのためレース用の「スリックタイヤ」では路面の凸凹を気にする必要がなく、耐摩耗性よりもグリップ性能のほうが重要なので、市販車用のタイヤよりはるかに柔らかいゴムが使われています。そのため、溝があると剛性が低くなってしまい、グリップ性能が落ちてしまいます。
また、もうひとつの「排水性能」についてですが、スリックタイヤはドライ路面専用のタイヤという位置付けなので、排水の機能が必要ありません。では雨の日はどうするのかというと、グリップ性能を多少犠牲にして排水用の溝を加えた「レインタイヤ」というものが用意されているのでそちらを使用します。
ちなみに、実用十分な排水性能をキープしつつ溝の占める面積をできるだけ減らしてグリップ性能に振った「Sタイヤ」というものも売られていて、スポーツ性能をウリにした車種に新車時から装着されていたりもします。
そのようにひとくちにタイヤといっても、用途やユーザーの好みに対応するいろいろな種類のバリエーションがリリースされているので、その目的や好みにフィットしたタイヤに換えることでより快適な運転がおこなえるようになります。タイヤ交換のときにはいろいろ調べてみましょう。