いくら魅力を語れど売れなくなるには理由がある! セダン&ワゴンが日本で衰退しているワケ (2/2ページ)

SUVでは無理なワゴンの魅力

 そしてここ10年来のSUVブームの到来である。レンジローバーやディフェンダー、Gクラス、ジムニーなどは古くから不動の人気車種だが、いまや国産車はもちろん、欧米の自動車メーカーがこぞってSUVを発売。ドイツ御三家のBMW、メルセデスベンツ、アウディもSUVが主役の座についているし、ポルシェ、ベントレー、ランボルギーニ、マセラティといった超高級自動車メーカーも、いまではSUVをラインアップしているほどだ。もはや、SUVをもたない自動車メーカーに未来はない……みたいな様相である。

 もっとも、ステーションワゴンは日本、アメリカでは絶滅の危機に瀕しているものの、欧州ではセダンと並んでステーションワゴンの用意を欠かしていない。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンなどを見れば、しっかりとステーションワゴンがあるのだから……。

 日本でのステーションワゴンの衰退の理由のひとつに、かつてのミニバンブームがあったと筆者は考えている。子育て時代にミニバンを体験し、その大空間、運転視界の高さ、そして3列目席の格納によって得られる大容量のラゲッジスペースを知ってしまえば、ステーションワゴンの低重心な走り、立体駐車場への入庫容易性を知りつつも、もうステーションワゴンには戻れない……ということだ。

 それに追い打ちをかけたのが、繰り返すが、空前のSUVブームだ。その堂々としたスタイル、最低地上高の余裕、4WDによる悪路走破性、ミニバン愛用者だった人も納得の視界の高さ、見晴らしのよさ、ステーションワゴンに準じたラゲッジルームのゆとり、シートアレンジ性、ブームの空気などもあって、アウトドア派だけでなく、セレブ、ファミリーユーザーにも受け入れられたのである。

 そして何といっても、SUVでも静かで乗り心地よく、安定感抜群のクルマができるようになったのだから、ステーションワゴンの出番(購入意欲)が減少して当然。自動車メーカーも売れるクルマを作らなければならないから、かつて北欧のワゴンメーカー(240/850/V60エステートが代表格)として一世風靡したボルボも、いまではラインアップのほとんどが電動SUVであり、日本のステーションワゴンブームをけん引していたスバルもレガシィではなく、そのクロスオーバー版であるアウトバックを残し、レヴォーグとともにこれまたそのクロスオーバー版であるレイバックを登場させたわけだ。実際、極悪路を好んで走るユーザーなどごく一部だろうが、そこに、どこへでも走って行ける期待、夢があるというわけだ。

 ただし、である。筆者は1990年代から2000年代にかけて国産(逆輸入)ステーションワゴンを2台、2014年から現在に至るまでの10年間、2台のドイツ製ステーションワゴンに乗り継いでいる。きっかけはかつてメルセデス・ベンツEクラスセダンに乗っていたとき、大型犬のゴールデンレトリーバーを飼い始め、みるみる大きくなる愛犬「ナナ」のために、ステーションワゴンに乗り換えたのである。

 いま乗っているステーションワゴンのポイントは、低重心な走行性能、SUVに比べて軽量ゆえの燃費性能のよさ(ガソリンターボにして高速走行中心なら20km/L近くはいく)、ラゲッジにルームの低さ(世界のステーションワゴンの平均値約620mm/SUVは700mm前後)による重い荷物の出し入れの容易性、全長約1000mmのペットカートをラゲッジルーム奥に横積みできる積載効率の高さ、シートアレンジによる車中泊のしやすさ(災害時に犬連れで避難所の室内に入れないため)、そして、たまに使う立体駐車場への入庫容易性などが挙げられる。

 先日も横浜のコンサート会場にクルマで行った際、開演1時間以上前にもかかわらず、周囲の背高SUVやミニバンも止められる平面駐車場はどこも満車。しかし、こちらはステーションワゴンだからその近くにある全高制限1550mmの立体駐車場にすんなり止めることができ(全高は1485mm)、多くのコンサート来場者であろうクルマが周囲の道路で右往左往しているなか、余裕で開演に間に合ったこともある。

 決定的だったのは、先代の愛犬、ラブラドールレトリバーのマリアが高齢になったときだ。やむを得ずラゲッジルームに乗せる際に、ステーションワゴンのラゲッジルームの低さは絶対条件だったのだ。ノーマル状態で630mmだった開口部地上高を、ローダウンサスペンションで600mmまで下げたほどである。

 現在は小型犬と中型犬の2頭と暮らしているが、犬をラゲッジルームに乗せることはなくても、ステーションワゴンのラゲッジルームの使いやすさから、SUVの魅力、メリットを知りながらも、ステーションワゴンに乗り続けている少数派(!?)のひとりなのである。

 しかしながら、この5月に軽井沢の「レジーナリゾート旧軽井沢」という愛犬同伴専門のリゾートホテル、レジーナリゾートのフラッグシップとなるホテルを訪れたら、駐車場に止まっているクルマの約7割が国産、輸入車のSUVだった。愛犬家にも広がるSUVブームの凄さを改めて痛感。

 そのほかはミニバン1台、コンパクトカー1台、ステーションワゴンは筆者のクルマを含め、2台だけだった(もう1台のドイツ製大型ステーションワゴンはなんと、偶然にも、筆者の愛犬とのドライブ旅行記事、試乗記を熱心に読んでくださっている大型犬3頭連れの読者であった)。

 軽井沢のように、冬、雪国となるリゾート地を訪れるのには、なるほど、最低地上高に余裕があり走破性に優れた4WDのオールラウンダー=SUVにメリットがあることも確かではある。根っからのステ―ションワゴン派の筆者も、燃費性能に優れたHVまたはPHEVで、災害時の愛犬との避難にも役立つAC100V/1500Wコンセント付きのSUVであれば、SUVに浮気する可能性もないではない。予算が許せば、の話だが。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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