「じゃないほう」どころか「500」じゃないチンクエチェントがあるだと!? みんな大好きな「チンク」の面影ゼロのフィアットの正体とは? (2/2ページ)

似ても似つかないもう1台のチンクエチェント

 そんなフィアット500だが、じつは、日本に正規輸入されなかった、フィアットCinquecento(チンクエチェント)という名のクルマが、1991年にフィアットから発売されていた。あえてフィアットの500ではなく、そのイタリア語であるCinquecentoを名乗った理由は、ズバリ、フィアット500とは別物のポーランド製FFベーシックカーであり、しかしCinquecentoの名声にあやかろうとした(!?)からだろう。

 フィアットCinquecentoがフィアット500とまったく違うクルマであることは、そのエクステリアデザインを見れば一目瞭然。丸みを帯びたフィアット500に対して、「じゃないほうの」こちらはフィアットのポーランドにおけるライセンスモデルである3ドアハッチバックモデル=126の後継車であり、初代フィアット・パンダのように角ばった、本家フィアット流の(ウーノにも似ている!?)エクステリアデザインを用いているのだ。エンジンは直列2気筒704cc OHV、直列4気筒899cc OHV、903cc OHVの3種類で、4/5速MTとの組み合わせだった。

 1994年には現代的な、フィアット・プント用の直列4気筒1108ccエンジン+5速MTを積むスポルティングが登場。もちろんアバルトもあり、この世代のフィアットCinquecentoは後席を倒せばフラットな拡大ラゲッジルームが出現。全長3.3m、全幅1.5mに満たないボディサイズにして、日常からレジャーにまで使える庶民派コンパクトカーだったようだ。

 日本においては正規輸入されなかったため、知る人ぞ知るCinquecentoという影の存在であったが、1998年のMCで、Cinquecento=500の後継車としてSeicento=600という車名に変更されている。ボディサイズは全長3337×全幅1508×全高1420mm、ホイールベース2200mm。エンジンは直列4気筒OHV、899ccおよび直列4気筒SOHC、1108cc+5速MT、5速セミAT(シティマチック)が用意されていた。MC前からスポーティ仕様のスポルティングのほか、電気自動車のエレットラも設定されていたのだから、時代を先読みしていたフィアットの1台といっていいかも知れない。

 ちなみに中古車検索サイトでフィアットCinquecentoを検索したところ、ヒットしたのは2002年式のフィアットSeicento=600アバルトの1台のみ。選び放題の本家フィアット500に対して、希少すぎる隠れチンクエチェント/セイチェントといえる存在であることの証明だろう。もっとも、本家フィアット500の愛好者からすれば、眼中にない1台かもしれないけれど……。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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