吸排気チューニングのメリットとデメリット
■メーカーが効率優先のエアクリーナーやマフラーにしない理由
では、高い技術力をもつメーカーがそういった効率のいいエアクリーナーやマフラーをなぜ最初から装着しないのでしょうか?
その答えは、優先しているのがパワーや迫力のある音ではないからです。
いろんな人が運転して、いろんなシチュエーションの道を走行する市販車では、それを取り巻く周囲への配慮が重要な課題です。社会的な責任のある大企業が販売するクルマが、誰かの迷惑になる状況は避けなくてはなりません。
なので、音量はできるだけ控え目にしないとならないでしょう。
耐久性と信頼性の高さも重要です。クルマはおおむね100万円以上する買い物ですから、故障などのトラブルは大いにマイナス評価となります。なので、吸気の効率を優先するよりも、できるだけ異物を取り除く安心度を優先させているのです。
そして意外に重要なのが、ドライバビリティ(運転性)の維持、向上です。
市販車はいろんな人が運転するので、クセがなく操作しやすいことが求められます。具体的には低回転からしっかりとトルクが出始めて、そこから急激な変化がなく回転が上昇するエンジン特性が運転しやすいといわれています。
ここで重要になるのが、吸排気の適度な抵抗なのです。
エンジンというのはその仕組み上、低回転では吸入の勢いが低く、高回転では逆に高くなります。高回転では勢いに沿って多くの空気が吸い込まれるので、それを妨げないような広い通路が最適です。低回転ではその逆で、低い勢いでも適度な流速が得られるように狭い通路が最適となります。つまり、どちらかを優先させると、逆が悪影響を受けてしまうのです。
市販車の多くは街なかで多用する低い回転域でもっとも扱いやすくなるように設計されています。つまり、その回転域で適度な流速が得られるように、あえて吸排気の通路を細めに設定しているんです。
■「吸排気チューン」のメリットとデメリット
というわけで、市販車の多くは吸排気の効率を二の次にして、周囲への配慮や信頼性、そしてドライバビリティの高さを優先させた設計が行われているということがわかってもらえたと思います。
そんなクルマに対して、社外のエアクリーナーやマフラーを装着するメリットとは何でしょうか?
これは、最初に述べたとおり少しでも出力を向上させたいという欲求が満たされることでしょう。パワー(感)やレーシーに感じられる吸排気サウンドを手に入れることができます。
ただし、その場合は周囲への迷惑を考慮に入れなければならなくなり、低速域の扱いやすさが犠牲になるのを覚悟しないとならないでしょう。
それでもメリットのほうが勝るなら、導入する意味は大いにあるでしょう。
そもそもバランスよく仕立てられた市販車をチューニング(改造)するということは、何かを犠牲にして優先したい部分をもち上げるというトレードオフの行為なので、何もかもが向上できるという方法はほぼあり得ません。
メリットの裏にあるデメリットも踏まえておこなうようにすれば、後悔は避けられると思います。