eスポーツ経験者だけにシミュでは安定して好タイムを出す2期生
なるほど、すでにサーキット走行やレースを経験済みの人には当たり前かもしれないが、確かに避けづらいポカは走る以前から多々あるもの。昼食のあとはいよいよ、この日のトレーニングの目玉であるシミュレータールームへ。
まず筑波サーキットを2ペダルのパドルシフターで通常走行、つまり全開で走り出す。もちろんマシンはNDロードスターで現実にそんな仕様はないが、ハンドルコントローラー上でそれを選べる点がバーチャルの利点であり、全員が当たり前のように左足ブレーキだ。
それにしても、さすがグランツーリスモの世界大会やeスポーツですでにJEGTに参戦していたり、カート経験者を含む2期生。速い。誰もが1分2~3秒でラップを刻み続ける。
おおよそウォームアップが済んだところで、今度は2ペダル&シーケンシャルシフトで走る。つまり右足ブレーキと左手でシフトアップ&ダウンという、3ペダルMTへの移行プロセスだ。左手がステアリングから離れる時間がどうしても生まれ、シフトポイントを正しく選ぶ必要がある。
スピンからコントロールを失っても、何とか立て直そうとする2期生のひとりに、講師の樺木氏がこうアドバイスする。
「実車はスピンモードに入ったらブレーキかけて止めたほうが、ウン10万円違ってくるよ」。
数ラップ後には全員、当初より明らかに走りがスムースになって、さっきと遜色ないラップタイムで安定してきた。ピットイン時に4輪の摩耗率や偏りも確認できるが、速さを求めるだけではないトレーニングは、ここからだった。
「今度は5500rpm縛りで、加速もアクセルペダルの8割までで! (コーナーの)ボトムでのスピードは落とさず、加速は早めにシフト、早めにアクセルオフして。ダンロップはアクセルをなるべく戻さずに行けるところを探って、最終コーナーは手前から減速してまわること。それで1分7秒ペースで走れるよう。本番では、そこからさらに燃費をセーブしたり、6秒台に入れて、とかありうるよ!」。
ペースを少し抑えると、ドライバーの性格、ドライビングの丁寧さやスムースさで、燃費に少しづつ差が出てきた。筑波の次は、ツインリンクもてぎでも同じように全開と燃費走法を繰り返し、残量7リッターで誰がいちばん最後まで遠くまで走るか? という、マツ耐の本番さながらのエクササイズも行われた。
この日のトレーニングでリアルレースの雛たちは何を学んだか
かくして2時間みっちり走ったあと、デブリーフィングで2期生たちが今日の学びをふり返った。
「iレーシングは初めてで縁石の感覚もリアルでしたが、グランツーリスモではやったことないような燃費走法、アクセルオフでタイムをコントロールするのが新鮮でした(岩見遼太朗さん)」。
「素晴らしい場所で、丁寧でレベルの高い教えを得られました。リアルでもバーチャルでもスポーツマンであること、マインドセットの大事さも。燃費の耐久レースなので勉強になりました(鍋谷奏輝さん)」。
「思った以上に取材の方も大勢いて、驚きました。燃費走法としてショートシフトだけでなく、全開で踏まないことは新しい気づきでした(川上奏さん)」。
「ぼくも燃費走法は今日、初めてやって気づきがいっぱいありました。でも最初のペースの作り方が難しいので、慣れる必要アリですね(新木悠真さん)」。
「これまで一人ではやったことない走り方だったので、燃費走法からステアリングの入れ方や戻し方で、気づくことがかなりありました(石水優夢さん)」。
ここでシミュレーター講師のふたりから、講評が述べられた。
「走りは申し分なくて、あとは現実をどう考えながら走るか。今はシミュレーターですが、タイヤは丸いだけでなくたわむ、物理的なもの。世界の見え方がリアルのサーキット行くと変わってきます。実車のフィードバックを、クルマの動きと見え方を、精緻に意識していくと、シミュレーターでも上に行けます(樺木大河氏)」。
「シミュレーターの走りについては申し分ないですね。燃費もそうですがトラフィックなど、リアルではシミュレーターでどうしても出てこない問題があって、ミスしやすいもの。縁石に少しかけただけでも、あるいはイエローやオイルスポットでも。燃費もコンマ単位でなくマージンをとったり。リアルでは何か起きてからでは大変なので色々経験を貯めて、楽しく安全に走れるようになりましょう(武藤壮汰氏)」。
実際、一定のエネルギー量から効率よくパフォーマンスを引き出して、できるだけ速く遠くに走るのがマツ耐の基本ルール。マツダのブランド体験推進本部でMSpRの「バーチャルからリアルへの道」プログラムを企画した油目雅史氏は、こう述べる。
「私自身、eスポーツをずっとやってきて13年前、NCの時代に初めてサーキットを走ったクチでした。ゲームから来た子がリアルに走ると危ない、などといわれていたころで、むしろバーチャルやシミュレーターを活用できないか、ずっと温めてきたのを1年半前、MSpRブランドの立ち上げと同時に企画化できました。1期生9人のうち半分がJAF公式戦に進みました。マツダにはロードスターという、草の根からトップレベルのカテゴリーまで活用してもらえるツールがありますから、アメリカなど世界各地の現地マツダとも議論を始めたところで、参加型のモータースポーツ文化のすそ野を拡げられるんじゃないか、そんな想いでいます」。
いわば短期的には、6月以降の4戦での2期生の仕上がりや1期生の活躍に注目。そして中長期的には、バーチャルからリアルへの具体的なパスウェイとしてMSpRの育成プログラムが、単なる若手登竜門である以上に、参加型モータースポーツの入口となることに、注目だけでなく参加の機会をうかがうべし!