「俺のはフルチューンだから」……とかクルマ好きたるもの一度はいってみたい! とはいえ「フルチューン」ってなに? (2/2ページ)

パワフルさは魅力的だが同時に「フルチューン」はシビア

■エンジン本体に手を加えるのが「フルチューン」

 さて、最初に異論を覚悟で言ってしまうと、エンジン内部の構成部品を変更するのが「フルチューン」と定義してしまいます。

「オーバーホールは?」という人がいるかもしれませんが、それは目的が「リフレッシュ」で「チューニング」ではないので該当しません。

 チューニングの目的でエンジン内部に手を入れるということは、つまり手間と費用を惜しまず投入する覚悟をしているということができます。

 例外として、エンジンを車載状態でおこなえるポン付けのカム交換のみという場合は、いろいろ解釈があるかもしれませんが、このケースは「ライトチューン」に含めたいと思います。

 なぜなら、本来カムシャフトを交換するということは、そのエンジンの特性をガラッと変えてパワーを絞り出すことを意味します。

 ノーマルとは比較にならない形状の、いわゆる「ハイ(リフト)カム」と呼ばれる高出力専用のプロフィール(その特性を出すためのカム山の形状のこと)のカムに交換すると、まず増したリフト量に対するバルブスプリングのサイズや強さを合わせることから始まり、カムが求める吸排気の量に合うビッグサイズのバルブに交換し、リフト量とバルブタイミングに干渉しない形状のピストンが必要になります。また、過激なプロフィールのカムの場合、圧縮比を高く設定する必要があるので、高まった圧に耐えるよう頑丈な鍛造ピストンが求められる場合もあります。

 そして、高回転型の特性なら必須なのが軽量で高剛性なコンロッドです。高回転で発生する遠心力に耐えつつ、慣性を減らすために軽さも求められます。

 最後はクランクシャフトです。高圧縮の負荷に耐えるような作りとなると、高強度かつ粘り強い素材が必要で、さらに高回転までスムースにまわすには、回転バランスに優れるフルカウンター形状を持った専用設計のクランクシャフトが必須です。

 また、排気量アップは出力向上にもっとも効果的なので、いまどきはストロークアップさせるものも流行です。

 そして、それらのチューニング用パーツを、シリンダーヘッドやシリンダーブロックに組み込むための機械加工が別途必要になりますので、この時間と費用もけっこうかかります。

 ちなみにそれらはNAチューニングの基本的な手法です。ターボの場合はまずタービンで馬力が決まりますので、求めるパワーでタービンを決めて、それに見合うハイカムや鍛造ピストンを合わせていくという流れになるでしょう。

 そのため、エンジン内部の部品構成についてはNAよりアバウトで良い場合も少なくないようですが、日産のRB26で1000馬力を狙うようなハイエンドレベルのチューニングをおこなう場合は、NA並みに突き詰めたパーツセレクトをおこなう必要があるようです。

■パワーを狙うほど、シビアさが要求される

 とまあ、フルチューンがどんなものかをザックリ紹介しましたが、要するにエンジンというのは、カムやピストンなどさまざまな構成部品が密接に関係し合いながらものすごい速さで作動しているものなので、一箇所を変更すると、関係するいろんな部品に影響が出てしまいます。その結果、ほとんどすべての箇所に手を入れることになり、かなりの手間と費用を覚悟しないとならなくなる、というわけなんです。

 ちなみに一般のユーザーにとっては、気に入ったクルマを長く楽しみたいという要望も大きなウエイトを占めるのではないでしょうか。その場合はエンジンの耐久性が重要になってきます。

 ノーマルの出力が200馬力だとして、おおよそですがその1.2倍の240馬力くらいであればエンジン内部に手を加える必要がなく、熱の対策をおこなえばエンジンの耐久性もあまり犠牲にならないでしょう。それが1.5倍の300馬力となると、内容はフルチューンとなってくるでしょうから、パワーが大幅にアップする分、エンジンの耐久性はかなり犠牲になっていると考えたほうがいいでしょう。

 いまどきは街乗りメインの車両でそこまでのチューニングをおこなうケースはめったにないでしょうが、もしそこまで踏み込む場合は相応の覚悟をして挑んでください。


往 機人 OU AYATO

エディター/ライター/デザイナー/カメラマン

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スズキ・ジムニー(SJ30)※レストア中
趣味
釣り/食べ呑み歩き/道の駅巡りなど
好きな有名人
猪木 寛至(アントニオ猪木)/空海/マイケルジャクソン

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