この記事をまとめると
■日産のスポーツカー「R33スカイライン」と「S14シルビア」は不人気モデルだった
■パフォーマンスでは先代を凌いだがデザインを大きく変えたことが不評につながった
■「見える場所はできるだけ変化させずに見えないところ変化させる」ことが重要だ
「R33」と「S14」が当時不人気だったワケ
「初代が創り、二代目で傾き、三代目が潰す」という言葉があるが、クルマでもなんでも、大ヒットした次のモデルは難しい。
国産スポーツでいえば、S13シルビアのあとを継いだS14、R32スカイラインの後継車だったR33、初代ロードスターNAに二代目NB、初代インテグラタイプR(DC2)の次のDC5……。
いずれもパフォーマンスは先代を上まわっているはずなので、評価や人気は今ひとつだった。
これはなぜなのか?
ひとことでいうと、エンジニアの価値観とファンの価値観に隔たりがあったためだろう。自動車メーカーのエンジニアは、クルマを進化・進歩させるのが仕事。一方、ファンとは変化を望まない集団のこと。
音楽などがわかりやすいが、ファンは同じ曲想の音楽を何度も聞きたいわけで、「新しい音楽性を求めて」とかいい出して、路線変更をするバンドやアーティストは、多くの場合、人気が低迷していく運命にある。
「快楽はある種の反復性のうちに存する」と喝破した先賢がいたが、「同じものを求めてやまない人」こそ、もっとも典型的で正統派ファンの姿なのだ。
だから、ファン層が厚ければ厚いほど、変化に対する反発は強く、シルビアはずっとS13のままでいてほしいし、スカイラインはずっとR32のままでいい、と思うのが正しいファン心理といえるわけで、その点でクリエイティブなエンジニアとの相性は最悪な関係になりやすい。
S14シルビアなどは、ボディサイズは大きくなったが、剛性はアップし、リヤサスペンションも進化。タービンもボールベアリングになり、可変バルタイもついて、S13よりもずっとポテンシャルは高くなったが、シルビアファンの食指は動かなかったのだ。
R33スカイラインも、空力は改善、前後の重量バランスも適正化。ボディも筋金入りで高剛性となり、ホイールベースが延びて居住性まで向上。そのうえアンダーステアも弱くなったのに、R32から乗り換えたいと思った人は少数派だった。
シルビアもスカイラインも、S13、R32がヒットし、S14、R33で路線変更。そしてS15、R34でそれぞれ回帰方向に向かったわけだが、いずれもS14、R33を飛ばして、S13→S15、R32→R34に進んだら、もっと多くの人に受け入れられて、もっとヒットした気がするのだが……。
エンジニアとファン、どちらも立場が違うので、どちらが正しい、どちらが間違っているとはいえないが、メーカー側に「同じものを求めてやまないファン」に対する愛情が深ければ、相思相愛の関係が長続きしたに違いない。
長年第一線で活躍しているミュージシャンや作家は、その愛情を持って同じテイストの作品を送り出している人ばかりのはず。
「なにも足さない、なにも引かない」というわけには行かないだろうが、大ヒットしたモデルは、できるだけいじらず、見えないところを改良する。
それが理想なのだが、理想とはつねに難しいのが現実だ。