ハイブリッド化はナシで自然吸気で突っ走る! フェラーリの新たな12気筒モデル「12チリンドリ」はクーペとスパイダー同時デビュー (2/2ページ)

スパイダー同時デビューは発売期間が短いことを示唆?

 すでに812コンペティツィオーネにも採用されているさまざまなチューニング技術は、この12チリンドリ用のF140DH型エンジンにも同様に採用されている。チタン製コンロッドの採用や、これまでとは異なるアルミニウム合金を使用することでさらに軽量化が図られたピストン、クランクシャフトもさらにバランス取りが施され、その重量は3%削減されたという。

 F1マシンからの技術導入によって採用が実現した、スライディング・フィンガーフォロワー式バルブトレインも、重量の削減とさらなるハイパフォーマンスを実現するために、このF140DH型に合せた特別な開発が施されているという。ダイヤモンド・ライク・コーディング(DLC)の技術などはその一例だ。

 組み合わせられる8速DCTも、新たなソフトウェアストラテジーが導入されたことで、選択したギヤの機能として利用可能な最大トルクを変更できるようになった。とくに魅力的なのは、3速から4速のトルクカーブを成形できるアスピレーテッド・トルク・シェイピング(ATS)の存在で、新たなギヤ比が導入されたこととの相乗効果で、さらに高いレベルの加速を維持することに貢献している。

 その究極的な運動性能に対応するダイナミクス制御技術も大幅な進化を遂げた。ブレーキ・バイ・ワイヤが導入されたことによって、296GTBで初採用されたABS Evoや6Dセンサーの搭載が可能になり、サイドスリップコントロール(SSC)も最新の8.0世代に。さらに、812コンペティツィオーネで採用された4輪独立操舵(4WS)も車軸の反応速度がより高速化し、ポジション精度の制御もさらに高まっているのも特長だ。

 ちなみに12チリンドリの前後重量配分は48.4:51.6。ホイールベースが812スーパーファストから20mm短縮されているのも興味深い。シャシーはオールアルミ製で、ショックタワーやAピラー、Cピラーといった鋳造コンポーネントのジオメトリーで、ねじり剛性を高めるとともに軽量化にも貢献。参考までにねじり剛性は812スーパーファスト比で15%増となる。

 最高速で340km/h、0-100km/hをわずか2.9秒で走り去る12チリンドリ。今回、さらに我々を驚かせたのは、そのオープン仕様である「12チリンドリ・スパイダー」を同時に発表してきたことだった。そのメカニズムは基本的にはクーペの12チリンドリと共通。ボディには、コクピット後方のロールバーとBピラーの間にアルミニウム製の補強連結材が組み込まれており、それによって重量の大幅な増加を避けるとともに低重心化も可能になった。

 スパイダーに採用されたルーフはアルミニウム製のリトラクタブル・ハードトップ(RHT)。ドライバーとパッセンジャーの頭上にはカーブが設けられ、キャビン内でのヘッドクリアランスを稼ぐ工夫が施されている。RHTの開閉時間は14秒間だが、車速が45km/h以下ならば走行中でのオープン、クローズのいずれも可能だ。またリヤスクリーンは電動で高さを調節することができ、それをクローズすれば200km/hでのオープン走行時にも、キャビンで通常の会話ができるという。

 クーペの12チリンドリからの重量増は60kg。オーバー800馬力というパフォーマンスを持つモデルにとって、それは大きなハンデとはならないだろう。事実、最高速はクーペと同じ340km/hと、また0-100km/h加速も0.05秒遅いだけの2.95秒とフェラーリからは発表されているのだから。

 この時代に再び自然吸気のV型12気筒をシリーズモデルのフラッグシップとして誕生させたフェラーリ。はたしてそれは、本当に限られた、数少ないカスタマーのためのモデルとなるのだろうか。

 そしてフェラーリが打つ次なる一手は? 彼らの動向からはますます目が離せなくなった。


山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ
趣味
突然思いついて出かける「乗り鉄」
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