【試乗】メルセデスのスーパースポーツが4WD+4WSでさらに激速に生まれ変わった! AMG GTクーペをサーキットで全開走行 (2/2ページ)

サーキット走行に適した性能や機能を備える

 コースインするとシャシー剛性の高さ、そしてステアリング剛性の高さが印象的だ。レースモードでは、アクティブライドコントロールが機能していてサスペンションダンピングは硬められている。とくに低速走行では硬すぎるくらいの設定だが、速度が上がるにつれてちょうどいいバランス感を与えてくれるようになる。

 フル加速で走ると速度はあっという間に上がり、およそ400mのバックストレートでは209km/hまで速度が上がるのを速度メーターにより確認することができた。最終コーナーをシフトダウンしながら4速ギヤでクリアしアクセル全開で立ち上がりタイムアタックに入る。まだ新車ゆえブレーキに熱が入っておらず、最初の数ラップはブレーキの利き自体があまり好ましくなかった。

 今回、全車スチール製のディスクブレーキとなっていて、カーボンブレーキは準備されていないという。これは世界的にカーボンブレーキの供給が追いつかない状況となっていて、現状はスチールブレーキで制動力を得るように設定されているのだという。2〜3ラップしてブレーキが熱が上がったのちに、さらに2〜3ラップクールダウンをし、タイムアタックに入る。コーナーのブレーキングではスタビリティが高く、また旋回に関しても非常に安定感のあるターンイン時過渡領域特性を示してくれた。これはじつは後輪操舵システムであるリヤ・アクスルステアリングシステムが機能しているためで、100km/h以下では逆相に最大2.5度、またそれ以上の速度では同相に最大0.7度までリヤホイールを操舵している。従来AMG GT CやGT-Rなどに採用されていたが、今回これが標準装備となり、また4WDの特性も加わり安定するのだ。

 1周2kmの筑波サーキットは、AMG GTレベルのハイパフォーマンスカーにとって、ほとんどのコーナーがタイトなヘアピンのようなものであり、1コーナー、1ヘアピン、第2ヘアピンは超低速。その立ち上がりでは4WDのトラクション性能が最大限引き出され、従来のAMG GTのようにテールスライドを起こして駆動力が失われるような場面とはならなかった。試しにトラクションコントロールをオフにしても同様で、若干ヨーレートの立ち上がりが早くなるものの、駆動力自体はしっかりと路面に伝えられ、素早くコーナーを抜けることができる。右ダンロップコーナーやその先の第二ヘアピンに至る高速左コーナーは1940kgを超える重量の大きさからややアンダーステア気味となるためアクセル全開というわけにはいかなかったが、それでも車速の伸びは十分高い。

 今回のGTクーペに装着されているのは「ミシュラン・パイロットスポーツS5」という純正装着のノーマルラジアルタイヤであり、フロント295、リヤ305の共に30偏平という超偏平21インチタイヤとなっている。そのグリップ力は非常に高く、Gメーターを見ると1.5Gを超えるようなコーナリングGを発揮していることがわかった。

 1周のアタックを終えてラップタイムを見ると、1分2秒62というタイムが記録されていた。これはクルマのセンターディスプレイ機能のなかにAMGパフォーマンスアプリが仕込まれていて、スタート位置を登録すれば全国のサーキットで自動的にラップタイムを計測してくれるものだ。また、テレメトリーシステムでG変化やエンジン回転、車速なども後から確認できるようなレーシーな装備となっているのである。こうしたゲーム感覚的なギミックの装備も面白いが、やはり本質的にはAMG GTの走りの良さが最大の魅力といえるだろう。

 エンジンはフロントミッドシップだが、従来のGTよりもトランスミッションがある分、若干フロントアクスルにエンジンがかかった状態のレイアウトとなっている。ただそれが影響してハンドリングに悪影響が及ぶことはなく、高性能のタイヤ、そしてリヤアクスルステアリングシステムと、4MATIC+によって弱アンダーステアの姿勢に終始することがわかった。ラップを重ねていくとフロントタイヤのグリップダウンが感じられてくるが、そうした場面ではフロントのチンスポイラーおよびリヤの稼働式スポイラーを立ち上げてダウンフォースを増やすことが可能だ。

 今回、アタック初期にはその動作の仕方を学習できておらず、未作動のままアタックとなってしまったが、タイヤのグリップ低下を感じた後に作動させて走行してみると、ダウンフォースが増えてタイヤの接地性が向上、ステアリングの操舵応答性も回復できていることがわかる。200km/h走行時で最大50kgのダウンフォースを発生するとされており、確実な効果を持たされているものである。

 このようにAMG GTクーペは、サーキット走行をも可能とするスーパーハイパフォーマンスカーとして仕上がっていることが確認できた。このような高性能車は、一般道でその性能をフルに引き出すことは不可能となっており、オーナーとなるドライバーはサーキットなどでその極限的な走行性能の高さを確かめるしかない。

 昨今は平日でもサーキットへ行くとスポーツ走行目的のこうしたオーナードライバーが多く見かけられる。そんななかにあって、AMG GTクーペはほかのスーパーカー群に引きを取らない性能で、流れをリードして走ることが可能である。ただ、なんの経験や知識もなくしてサーキットにいきなり足を踏み入れることも好ましくない。オーナーとなってサーキットを走る場合は、AMGが主催する「ドライビングアカデミー」を受講し、ぜひサーキット走行のスキルやクルマの限界コントロールのノウハウを学んで、サーキットにチャレンジしてほしい。

 今後さらに、このメルセデスAMG GTクーペには、リヤアクスルに電動モーターを仕込んだeパフォーマンスの登場も予定されていると聞く。AMGのハイパフォーマンスが、まだまだ今後も大きな進歩を示してくれることを期待している。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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