この記事をまとめると
◾️交通事故の際に女性が男性よりむち打ち症になりやすいということがわかった
◾️事故での負傷の程度に男女差が出るのは、衝突試験で用いるダミー人形が男性をモデルに作られていることが原因
◾️各自動車メーカーは性別や年齢によらずすべての人に安全なクルマづくりを目指すべきだ
交通事故での性差をどう捉えるべきか?
グローバルでさまざまな分野において、ジェンダーに関する議論が進んでいるところだ。そうしたなかで、技術的な観点でジェンダーについて問いかける試みが、自動車産業界にある。それが、スウェーデンのボルボが提案する、「E.V.A.プロジェクト」だ。E.V.A.とは、Equal Vehicles for All (イコール・ビークルズ・フォー・オール)の略称である。
ボルボといえば、古くから「安全なクルマ」として知られてきた。いち早く、衝突安全の分野に注目すると同時に、実際の事故をボルボ自社がデータ収集し、それを解析するという「事故調査隊」を導入した。
1970年に始まった事故調査隊は、これまでに4万台以上の事故車両と、7万人以上の事故に遭遇した乗員に関するデータをまとめてきたという歴史がある。
その結果として、クルマが実際に事故に遭った場合に、乗員に対する衝撃を少しでも減らそうとする車体構造の設計や、エアバッグなどの新規技術を量産車に投入してきた。これは、日本車を含めて行われてきた技術革新であるが、ボルボの事故調査隊の取り組みは、ほかのメーカーに大きな影響を与えてきたといえる。
さらに2000年代以降になると、クルマが事故に遭遇する危険性を事前に削減するために、ボルボは予防安全技術の導入にも積極的な動きを見せてきた。いまでいう、先進運転支援システム(ADAS)の領域だ。
こうした過去の経験を踏まえ、ボルボは自動車事故について改めて「クルマと人」の関係について自問自答した。
そこから見えてきたのが、性別に関わることだ。
ボルボ・カーズセイフティセンター、シニアテクニカルスペシャリストのヤコブソン博士によれば、長年にわたり実際の事故から収集してきたデータによって、「男性、女性、子どもが事故によって受ける負傷を特定できるようになった」という。
その上で、女性は男性に比べて骨格や身体的な強度の違いから、むち打ち症になる可能性が高いというデータがある。
その原因のひとつは、なんと衝突に関する実験で用いる人体ダミー人形が男性を基本として設計しているからだと言うのだ。これをもとに、ボルボはシートの設計を見直すことで、男女を問わずむちうち症を予防する開発を行っている。
また、男性に比べて身長が低い傾向がある女性の場合、側面衝突の際の安全性確保も必要であり、ボルボ独自の側面衝撃吸収システム(SIPS)の導入も実現している。
ボルボは、E.V.A.プロジェクトの一環として、これまで蓄積したデータを一般にも公開しており、ほかの自動車メーカーや自動車部品メーカーの研究開発のために、またユーザーの基礎知識としてボルボの知見が活かされることが期待される。