懐かしささえ感じられるような運転感覚
エンジンを始動すると、静かに4気筒エンジンが回転を始める。遮音が非常に優れていてエンジンサウンドはほとんど聞こえてこないが、車外に出てみると、ガソリンエンジンの回転するアイドリングサウンドが聞こえ、静かなEV車よりなぜかホッとするような安心感を覚える。直噴エンジンは通常、ディーゼルに近いエンジン音を発生しがちだが、このエンジンは、より低音で内燃機関のクルマ好きのハートをくすぐるような音色に仕上げられているようだ。
シフトレバーはステアリング右手のレバー式であり、これを上下に動かすことによってDレンジやリバースに入れることができ、パーキングはレバーの先端のボタンを押すことで選択できる。ドライブモードはエコ、コンフォート、スポーツの3モードとインディビディアルモードが搭載されており、デフォルトではコンフォートから始まっていく。
走り始めて最初に感じたのは、近年電動モーターで発進するハイブリッドやPHEV、あるいはEVと違ってガソリンエンジンの回転数の上昇、そしてターボチャージャーのブースト圧の高まりによって徐々に加速力が発揮されるという懐かしささえ感じられるような運転感覚が得られる。電動モーターのクイックなトルクピックアップに慣れてしまうと、トルコンスリップはややもたつき感のある印象だが、本来これが内燃機関のあるべき姿だったのだなと改めて思い起こさせられる。
発進時にはジェネレーターモーターがアシストしてくれるので、力不足はまったく感じない。 パワースペックを見ると、最高出力は204馬力を5800回転で発生。最大トルク320Nmは1600回転から4000回転で発揮させられている。これにモーターのアシストが必要に応じて引き出されるので、ドライバビリティとしては優れたものとになっている。スポーツモードを選択すると、足まわりがハードにセッティングされ、またステアリングからはクイックな操舵感を得られる。
さらにトランスミッションの変速制御が変化し、ギヤホールドする時間が長くなる。市街地においてはエンジン回転を抑えて走る場合、パドルによるマニュアルモード選択も可能だが、エンジンとトランスミッションのモードをインディビデュアルでコンフォートやエコに設定しておくと、変速が早く行われ燃費的にも優れたものとなってくるようだ。
一方で、高速道路やワインディング道路などで軽快に走らせるには、選択ギヤが固定されてよりエンジンのドライバビリティを生かした走りができるほうが好ましいといえるだろう。
CLE 200のもうひとつの特徴は、後輪操舵を備えていることである。すでにメルセデス車の多くのモデルが後輪操舵を備えていて、そのメリットの大きさはいまや必要不可欠といっても過言ではないほどの効果を発揮している。
CLE 200の場合は時速60km以下で後輪が最大2.5度まで逆位相に操舵され、前輪の最大操舵角である39度と合わせると、最小回転半径は5.0mと極めて小さく、国産のコンパクトカーよりも最小回転半径が小さくなるほどだ。後輪操舵を装備しないモデルは5.2mの最小回転半径となっていて、その20cmの差は市街地において極めて大きいといえる。
5.2mであってももちろん十分小まわりのきく特性に変わりはないが、5.0mというのは車体の大きさを考えると驚異的ですらある。一方で、時速60km以上の高速走行域では同相に操舵され、より安定性が高まるので、後輪二輪駆動といえども安定感の高いハンドリングが実現できているわけだ。
一般道を走行し、また高速区間も走った結果、乗り心地のよさにも感銘を受けた。装着されているフロント245/35、リヤ275/30偏平のタイヤ/ホイールは路面からのハーシュを車体に伝えやすいはずなのだが、うまく減衰されていて不快なハーシュはキャビンに伝わってこない。
試乗車にはドイツ製のグッドイヤータイヤが装着されていたが、マッチングは極めて高い。20インチの超扁平タイヤを履きこなせているのは、さすがメルセデス・ベンツと思わせるものがある。EVやPHEVなど大きなバッテリーを搭載するモデルは軒並み2トンを超えるような重量となっていて、それを支えるサスペンションやタイヤの剛性なども高めざるを得ない状況となっているのだが、CLE 200はそういう意味で非常にピュアなガソリンエンジンに近いので、サスペンションの設定の幅もより大きく取れているということになる。
コンフォートモードを選択すれば、少しふわふわとしたしなやかな乗り味となり、高級セダンのような印象すら覚えるのである。
さて、2ドアクーペということで後席の居住性についても確かめてみる。前席のショルダー部分に埋め込まれたレザーの引き手を引っ張ることでフロントシートを前に倒し、また電動モーターがさらに前方へ移動させて後席へのアクセスを行いやすくしている。
リヤシートはふたり分の2+2で、フロアトンネルのあるセンター部分にはカップホルダーなどが備わっている。大人にとっても十分な足もとの広さが確保されていて相当に広く感じさせる。
一方で、サンルーフが埋め込まれ、流麗なクーペスタイルのルーフはやや天井が低くなり、170cmほどの身長の筆者が乗っても頭頂部はすれすれな高さである。175cmやそれ以上身長があるような場合は、頭が天井に触れてしまうかもしれない。この後席はエマージェンシーという考え方もあるようだが、実際には実用的な空間として与えられているといえるだろう。
後席シートバックは6:4左右分割可倒式で、前方に倒すことによってラゲッジスペースと繋がり、大きな荷室空間となる。リヤトランクには420リットルの容量がもともとあり、リヤシートバックを出すことで、さらに長い寸法のものも積み込めるという実用性の高さを表している。
このようにCLE 200は、これまでメルセデス・ベンツが培ってきた2ドアクーペに対するさまざまな知見が活かされ、実用性や走り、燃費、安全性などを総合的に昇華させ、商品化されていることがわかった。それでいながら価格は850万円。ひと昔前だったら妥当な値段と感じるところだが、軒並み1000万円を超えるような電動化モデルやEVなどが多く存在する現在においては、850万円でこのモデルが買えるというのは、むしろバーゲンプライスであるかのように感じるのである。
今回は一般道、そして高速道路での試乗であり、燃費は 11km/Lほどであったが、さらに高速クルージングなどが多くなれば、より高い燃費性能を得られるだろう。2ドアクーペ復権を目指すかのように、CLE 200は今後どのように世界中のユーザーに受け入れられていくのか、その成り行きにも注目していきたいと思う。