登場しては消滅……の連続! 走りはいいんだけどなぁ……な「低全高ミニバン」4台と今は見かけないワケ (2/2ページ)

トヨタが送り出したオトナな低全高ミニバンとは

 2007年には空前のミニバンブームに乗って、トヨタからマークXジオなる、全高1550mmの低全高ミニバンが登場する。それはミニバンブームの最中、トヨタが子離れミドル世代に提案するもので、2005年の東京モーターショーに参考出品されたFSC=フレキシブルサルーンコンセプトの市販版であった。

 マークXの冠が付くだけに、「子離れ世代に向けた、ミニバンの次に乗るべき、セダンでもミニバンでもワゴンでもない1台。2~4名乗車を想定した、夫婦、友人同士で愉しむ独立4座+フリー(6人乗り)というまったく新しいコンセプトと3列シートパッケージを持つサルーンの進化型=サルーンズフューチャー」というのを目標に作られた。

 室内高は3/4代目オデッセイと同じ1220mm。”フリー”の3列目席は必要なときだけ出現させるコンパクトな格納式である。つまり、基本は2列、4人乗り(パーソナルモードと呼ばれていた)の、サルーンライクに乗れるミニバン兼ワゴンだったのだ。 ※後席用エアコン吹き出し口はなかった。

 パワーユニットはマークX同様の163馬力2.4リッター直4と280馬力3.5リッターV6を用意。どちらもマークX譲りの低重心を生かした大人っぽいサルーン的走りのテイストが特徴だった。動力性能は2.4リッターでも十分だが、3.5リッターエンジン搭載車は、日常域でこそ2.4リッターモデルとの動力性能さは小さかったのだが、高速走行になるとその差は歴然。エンジンを回すとV6ユニットは勇ましい快音を放ちつつ、速すぎるほどの加速力をジェントルに見せつけてくれたものだった。同エンジンを積むエスティマより170kgぐらい軽量なのだから、それもそのはずである。

 最後に紹介する低全高ミニバンは、これまたホンダのジェイドである。デビューは2015年、ミニバンとワゴンを融合させた、ステップワゴンなどとは違う独身や子離れ層に向けた3列、6シーターの3ナンバーモデルであった。

 すでに中国では1.8リッターモデルとして発売されていたのだが、日本仕様は1.5リッターエンジンに1モーターのスポーツHV i-DCDを組み合わせることで、2リッターNAエンジンに匹敵するシステム出力152馬力を達成。しかも、全高は1530mmと、世界のミニバンのなかでもっとも低いルーフをスタイリッシュにもほどがあるエクステリアデザインとして完成させたのである。

 とはいえ、「ジェイドは3〜4代目の低全高オデッセイ、その時点で生産されていない5ナンバーミニバンのストリームの代わりになるミニバンか?」といえば、そのパッケージング、車格の違いから明らかにノーである。緊急席そのものの3列目席(アクロバティックな乗降動作が要求される)の仕立てから、むしろその時点ではなくなっていたアコードワゴンユーザーの代替えに向く1台といえたのだ。全高は1530mmとカタログに記載されているが、それはアンテナ部分で、ルーフそのものは1500mmなのである。

 ジェイド最大の特徴は2列目席にあった。航空機のアッパークラスを思わせるひじ掛けの付いた2列目席にはホンダならではのクリエイティブなアイディアがあり、ロングスライドするのはもちろんだが、リヤホイールハウスを避けるため、V字に下がるのだ(最後端まで下げると2脚のシートはくっつく)。しかも、天井は低いものの、身長172cmのドライバーのドライビングポジション基準で頭上に120mm、ひざまわりに最大300mmものスペースが確保されるされるのだから、居住性はなかなか。

 ただし、3列目席はまったく実用的ではなかった。3列目席乗員専用のガラスルーフ部分がえぐられているため頭上方向に110mmのスペースがあるものの、3列目席に着座するとひざまわりスペースはゼロ。が、2列目席をひざまわりスペース120mmになるまで前方スライドさせれば80mmの空間が生まれる。

 とはいえ大人が快適に座れる空間、シートではない。3列目席はクッション長440mm、クッション幅855mm、シートバック高580mmと小さく、とくに幅方向はかなり狭い。たとえば、ストリームの3列目席はクッション長440mm、シートバック高570mmとほぼ同等だが、クッション幅は990mmもあったのだ。ゆえに、3列目席は畳んで、先に述べたように、アコードワゴンの代わりとなるステーションワゴン的に使うのが正解なミニバンなのである。

 そうした使い方が当たり前だったからか、2018年のMCでは中国仕様にも設定されていた2列シート、5人乗りを新設定。ここでの低全高ミニバンと話とはズレるが、これは走り、1・2列目席の快適性、荷物の積載性など、なかなかの仕上がりだった。いまでもたまにジェイドを見かけるが、現在でも十分に通用するエクステリアデザインの持ち主だと思う。そこはいいとしても、室内高不足を含めたパッケージ的にいまひとつだったことが、ミニバンとして1代で消滅した理由ではないだろうか。

 全高1550mmを切る低全高ミニバンとして成功したのは、ミニバンを身近にしてくれた価格的魅力が光る2代目ストリームと、何といってもスポーティな走りに特化し、ファンを得た低全高時代の3・4代目オデッセイぐらいのものかも知れない。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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