強烈な加速性能を発揮!
これらの特性をもとにサーキットのホームコースへ走り出してみる。ピットアウト出口でローンチコントロールを試し、1コーナーへ行くまでに100km/hを超えてしまう圧倒的な動力性能を堪能する。車重が、通常のIONIQ 5から軽量化されているとはいえ、それでも1970kgという重量があることを考えると、この動力性能は圧巻だ。ともすれば首がむち打ち症状になりそうなぐらいの強烈な加速性能を発揮してくれた。
その勢いのまま第1コーナーをターンしていくとステアリングの利きのよさに驚かされる。ステアリングは電動アシストのパワーステアリングを装備しているが、モードによってその特性が切り替わる。
スポーツ+モードではクイックなレスポンスが発揮されてライントレース性を高めてくれている。高速からターンインしてもリヤのリバースは起こらず安定してコーナーをクリアできるのは四輪駆動ならではの安定性だ。立ち上がりでスロットルを開けるとまた強烈な加速が引き出される。
今回のIONIQ 5 Nでは、シフトモードが8速ギヤのようにステップ比が切られていて、加えてメーターにはタコメーター表示まで現れる。ノーマルモードでは6500回転でレッドゾーンとなっているが、トラックモードでは7250回転でレッドゾーンが示される。アクセル全開で7500回転に達するたびに右のハンドルを引いてシフトアップしていくと、車速がどんどん高まっていくのである。
知らなければガソリンエンジン車でツインクラッチのクルマを運転していると誤解されるような走行フィーリングに仕上げられているのに驚かされる。実際にギヤが組み込まれているわけではないし、モーターの回転数は7500回転よりもはるかに高い回転で回っているのだが、その加速フィーリングと変速感はガソリンエンジン車そのものといえる。
ブレーキングをしながらシフトダウンをすれば、ブリッピングと排気バルブのフラップ作動によるバブ音といったターボ車のような排気音が聞こえ、まさしくレーシングライクなサウンドが発せられていた。
BEV車でサーキット走行を行うと、その重量と減速Gによってはブレーキがオーバーヒートしやすく、またバッテリー温度が上がってフェールセーフなどが作動しやすい。おそらく通常のBEV車であれば2〜3周もしないうちにフェールセーフが働いてしまうだろう。ところがIONIQ 5 Nは5ラップでも6ラップでも安定してパフォーマンスを発揮することができた。
走行後にブレーキの温度を測ってみたが、ディスクローターの温度はフロントで110度、リヤで80度という低温だった。これは回生ブレーキが非常に強力に発揮されていることによるもので、スポーツ+モードでは 最大0.6Gまでを回生ブレーキが発生してくれているという。それによりディスクブレーキへの負担が減り、連続走行してもディスクブレーキ自体の発熱が非常に少ないのである。
この重量で、これだけの速さでサーキットを3〜4周もすればディスクブレーキの温度は通常400〜500度となり、フェード現象が発生してしまうものだが、まったくその心配がない。また、回生ブレーキの利きも低下してこない。バッテリーシステムが非常に冷却性に優れ、回生とデプロイを繰り返していても温度を低く保つ管理が非常に厳密に行われていることによるものだ。
資料によれば、こうしたハードな走行状態でもバッテリーの温度は20〜30度という低温に保たれ、つねに安定した回生が行えるようになっているという。また、回生と加速を繰り返してもバッテリーの温度は同じように低く保たれ、長年電気自動車を作ってきたヒョンデの神技ともいえるような技術の表れといえるだろう。
タイヤは車両重量の大きさもあって安定したグリップが発揮されている。また、そのグリップの低下も感じづらく、サーキット走行にも適した仕様となっているようだ。ヒョンデのIONIQ 5はすでに韓国ではワンメイクレースなどを開催するよう準備が進められていて、インジェ・サーキットにはIONIQ 5 N専用の急速充電システムも備えられているという。
ユーザーはサーキット走行を楽しみ、そこで充電する場合5年間は無償で急速充電が行えるという。日本仕様ではサスペンションのチューニングとコンピュータのチューニングを日本の道路事情に合ったものとしていて、またCHAdeMOの充電システムに対応するようマッチングが施されている。CHAdeMOではまだ150kWの充電システムはそれほど多くなく、またヒョンデが韓国で展開しているような350kWのハイパワー充電設備もまだ日本には導入されていない。今後そうしたインフラを充実させることがより多くのユーザーの支持を得る上で重要となってくるだろう。
クルマの好きな人はWRC(世界ラリー選手権)におけるヒョンデの活躍をよく知っている。多くの場合、トヨタとヒョンデそしてフォードの三つ巴の戦いとなっていて、トヨタをもってしてもなかなか手強い相手として認知されている。WRCのヒョンデ車が纏うマリンブルーのスポーティなイメージをIONIQ 5 Nは引き継いでいるといえる。
一般道においては、IONIQ 5が本来もつ実用性の高さと電費性能の高さが引き継がれていて、満充電では500km程度の航続距離が可能となる。それはモードによって変化するが、エコモードあるいはノーマルモードでも十分な動力性能が得られ、またガソリンエンジン車のような排気音を聞くこともできるので運転をしていて飽きることがない。
このようにIONIQ 5 Nは、これまで環境を最優先としていた考え、電気自動車の考え方から大きく踏み出し、ドライビングすることの楽しさ、またモータースポーツへのアプローチを明確に示したこで、今後さらに世界の多くのモータースポーツファンを取り込むことになると期待されている。