「なにがしたいのか意味不明」と辛辣な声! タイに進出したベトナムの新興自動車ブランド「ビンファスト」の戦略が謎すぎる (2/2ページ)

ベトナムブランドのクルマを買う意味が見つけられない

 フランスは、過去にベトナムを植民地支配していたので関係がないとはいえないが、なぜフランスのモーターショーに出展し、自国ショーに出展しなかったのか? まずこれがビンファストに対して初めて抱いた「?」であった。その後、アメリカのオートショーなど、先進国開催のオートショーへ積極的に出展している。これが第二の「?」であった。そして今回のインドネシアやタイでの動きに対して抱いたのが第三の「?」である。筆者の頭のなかでは「?」ばかりのブランドなのである。

 しかも、インドネシアモーターショーでも「展示台数(車種)が多いなぁ」と感じていた。それでも、クロスオーバーSUVスタイルでサイズが違うぐらいだったので気になる程度であったが、今回のバンコクモーターショーでは、ピックアップトラックやスズキ・ジムニーのようなものがあったりと、ますます多様化していた。本国ではワイドバリエーションをもつ中国系ブランドでさえ、モデルを絞って海外進出しているのに、この点でもビンファストは何をしたいのかがよくわからないのである。

 このあたりを事情通に聞くと、「ビンファストはベトナム最大の財閥とされるビングループの自動車部門のような存在になります。『ちょっとやそっとのことでは揺るぐことはない』という巨大グループらしい考え方もあるようですが、そのあたりも手広くやっているように見えてしまうのでしょう」と語ってくれた。

 タクシー向け車両を開発するだけではなく、タクシー会社まで作り、パッケージとして海外展開するといったこともしており、まさにスケールが大きいことは間違いない。

 また、当初は高級車ブランドを目指しているように見えたのだが、前述したタクシーの話や、現状では普及価格帯クラス(それでもBEVだから高い)のモデルを市販車としてラインアップしている。つまり、地域なども含めてターゲットを絞り込めておらず、風呂敷だけ広げているように見えるのである。

 また、インドネシアやタイで聞かれた話のなかには、「インドネシアやタイで売れると思っているのか」というものもあった。インドネシアとタイは、自国量販ブランドは持たないものの、世界有数の自動車メーカーの生産拠点を数多くもち、東南アジア屈指の自動車生産拠点となっている。一方のベトナムは、経済成長のスタートポイントがタイ、そしてインドネシアより遅かったこともあるのだが、完成車ではなく自動車部品の製造拠点として栄えた背景があり、タイやインドネシアではベトナムを、「下請け企業」的視線で見る人も少なくないというのである。

 そして、そのようなことから「ベトナム車をあえて買う理由が見つからないのではないか」と語る事情通もいた。タイやインドネシアでは、インド系ブランド以外の日本や欧州ブランドのインド製モデルも販売されているが、それですら抵抗を示す人がいるとのこと。インドも世界的に見れば自動車生産拠点としては有名だが、インドよりも「これから」となるベトナム製で、しかもベトナムブランドの場合はモデルだけではなく仕向け地も絞り、慎重にターゲットカスタマーを探っていくのが海外進出の常道となっているともいえよう。しかし、いまのビンファストは「ワールドワイドでしかもワイドバリエーションで一気に進出する」というようにも見える。

 今年も開催されるとの情報もある「ジャパン・モビリティショー」にビンファストがブースを構えたら、その「ワイド戦略」の真実味はより高まっていくかもしれない。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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