零戦スタイルに込められた意外すぎる製作意図
室内の作り込みも、外装に負けないこだわりが随所に見られます。零戦のイメージでごっそりと鉄板で作り直されたインパネには、工業用の計器類を配置して雰囲気作りをおこなっていますが、各計器類は実際に配線されて稼働するとういから驚きます。ここだけでも途方もない労力が注がれていることが窺えます。
シートはイギリス・リンドン社製のドラッグレース用のものを装着しています。スパルタンな内装にマッチしていますね。
その手前には何本ものレバーが生えていますが、シフトレバー、サイドブレーキ、ブレーキ配分調整レバーと、どれも実走行を考慮したものです。ただ、いちばん手前のバイク用レバーが付いたものはダミーだそうです。
エンンジンルームを開けると、ここにも火山灰の仕上げ(?)が施されています。RB25DETエンジン自体はノーマルですが、タービンを大型のもの(GT2835)に交換してパワーアップを図っています。
ちなみにバンパー前に付いているオイルクーラーはダミーで、実際のオイルクーラーやインタークーラーなどはバンパー内にレイアウトされていて、ドリフト走行にも耐えるように考慮されているようです。
と、ここまではこの車輌の特異な部分を紹介してきましたが、その製作意図はインパクト狙いとはまったく別のところにありました。
オーナーの宮路さんは鹿児島生まれで実家の近くに陸軍の特攻基地があったそうです。そのため、祖母の弟さんは特攻隊に招集され亡くなったということを幼少の頃から聞かされてきたそうです。
そうして物心付く頃には、基地の跡地に建てられた「知覧特攻平和会館」へと毎年慰霊に訪れるようになりました。ほどなく、自身がそうなったように後世の若い人たちにもこの事実を込めたメッセージを伝えたいという想いが大きくなり、その手段のひとつとして、周囲に若い人も多い趣味のドリフトを結びつけ、自身の車両にメッセージを載せたカスタムをおこなうという考えに至ったそうです。
インパネの左上には、特攻隊員がそうしていたように、実際の祖母の写真を飾っています。
フロントウインドウの脇には、「知覧特攻平和会館」に展示されている特攻隊員の遺した信書から引用した一文が記されています。
私を含め、いまを生きる人にとっては実感のない遠い昔の出来事ですが、こうしてメッセージを伝えようとしている人に出会うことで、それをきっかけに少しだけ関心を持つことができるようになりました。
南の空に向いて少しの時間、黙祷をしてみたいと思います。