AWDはよりパワフルでスポーティな走りをみせる
ところがAWDのツインモーターでは、様相は一変する。前輪にもトルク配分を行うため、そもそも真っ直ぐ加速するだけでも、効率がよく速い。すでにコーナー進入時、より高い速度を維持できるのだ。ESPオンのままではリヤのブレーク・アングルは控えめだが、後輪側から前輪側にトラクション配分が移るぶん、アクセルオンで待ちの局面がほとんどなく前輪側が引っ張ってくれる。
とはいえAWDにしてはカウンターステアを当てさせるタイプのハンドリングでなかなか忙しいが、RWDの2駆仕様より断然、パワフルでスポーティだ。
さらに、ESPオフにするとツインモーター仕様は、スライドさせられるアングルが明らかに深くなる。次のコーナーに向かって前輪側のトラクションに引っ張られる感覚はESPオンのときと似ているが、後輪側のトラクションが回復してAWD状態でグリップした瞬間、次のコーナーへワープするようなEVならではの強烈な加速が立ち上がるのだ。この加速感を自分の操作で作り出せるようになると、俄然ツインモーターが面白くなってくる。
ESPはいずれオフにしてもスタンバイしているとはいえ、氷の上で670Nm・408馬力ものトルク&パワーが手の内に入って来る経験は、痛快そのもの。EVゆえに制御の頻度が高められるからと、ひたすらトラクションオフとグリップ走行に徹させるのとは、真逆の発想だ。
というのも人口密度が極端に低く、万が一に事故でも起きたら救援に駆けつけることが難しい極地では、衝突や衝撃を和らげるパッシブ・セーフティは元より、ドライバーが自ら挙動を御することができるアクティブ・セーフティが重要なのだ。
「滑らない氷結路面・凍結路面なんてありえないからね。どんなにドリフト・アングルがついた状態からも、立て直せることが最重要なのさ」と述べながら、テストドライバーのひとりが筆者を隣に乗せ、アイストラックでツインモーター仕様を操って見せてくれた。
ESPはオフ、つまり介入遅めモードだ。氷の上とは思えないハイペースで、時計の振り子のようにテールスライドを誘発する。ときには60度近くリヤを振り出して、そのままフェイントモーションとしながら次のコーナー進入へ繋げるような、無駄のなさが印象的だった。
これまでBEVは自動運転と親和性が高いと、巷ではいわれてきた。が、レベル3のような条件付きや、一部のEVメーカーが積極的に喧伝する半自動運転の体たらくを例に挙げるまでもなく、動的なコントロール性が担保されもせず、ドライバーが信用できない機能では意味がない。BEVの時代にもアクティブ・セーフティを重視すべきというボルボの姿勢は、ボルボ伝統の安全哲学の延長でもあるが、BEVの捉え方の転換点ともいえるのではないか? そこにもEX30の、BEVとしての新しさがあるのだ。
試乗車(2WD仕様)の主要諸元表