開発者がMT車への衝突被害軽減ブレーキ導入を躊躇したワケ
GR86とBRZの6速MTも、2023年9月までは、衝突被害軽減ブレーキを作動させられるアイサイトを用意しなかった。それまでメーカーは「MTは販売比率が少ないから、衝突被害軽減ブレーキの設定が遅れている」と説明していたが、GR86やBRZでは6速MTが70%以上を占める。それなのに衝突被害軽減ブレーキの対応が明らかに遅れていた。
この背景には、衝突被害軽減ブレーキとMTの親和性もあった。たとえば高いギヤで走行中、エンジン回転が2000回転付近まで下がっている状態で衝突被害軽減ブレーキが作動すると、エンジンが停止することも考えられる。エンジンが止まった状態で、数回にわたりブレーキペダルを踏むと、真空倍力装置の機能が低下して制動力も下がる。当時、スバルの開発者と話をすると、真面目であるためにこのあたりを気にしている印象を受けた。
しかし、それを理由に衝突被害軽減ブレーキの装着を見送るのは本末転倒だ。とくにMT車を運転するドライバーは、何らかの理由で急激に速度が下がってエンジン停止に至ると、反射的にクラッチペダルを踏む。そこでマツダなどは、以前から6速MTにも衝突被害軽減ブレーキを採用していた。
いまではGR86やBRZも、専用にチューニングされたアイサイトを装着する。その結果、現時点の非装着車はGT-Rとコペン程度に減ったが、今後も安全装備の装着に伴う車種間の時間差はなるべく短く抑えたい。人の生命や健康に影響を与えるのだから当然だ。