インバウンドには外国人のほうがコミュニケーションしやすい
ちなみにニューヨークで常宿としているホテルで空港までのタクシーを頼むと、おそらくメキシコ系と思われるリムジンサービス会社のリムジンを手配される。タクシー料金とほぼ変わらないのでとくに気にすることもなく利用している。
たいていはリンカーンやキャデラックといった、高級セダンか高級SUVなのだが、あるとき夕方に空港へ向かうのでホテルへ戻ると、ホテル前にハリウッドの有名俳優が乗るような超ロング仕様に改造されたリムジンが停まっていた。「誰か有名人でも近くにきているのかなあ」と思ってフロントの人に声をかけると、申し訳なさそうに、「とんでもないのがきた」と先ほど見かけたリムジンに案内された。
人生のなかでおそらく今後も乗ることはないだろうと思い、空港に着いたときに運転士に記念撮影をお願いしてしまった。どうやら、リムジンは本来の需要(パーティ会場などへの送迎)が発生するのはやや夜遅い時間のようで、それまで待機している時間を利用して空港までの送迎サービスを行っているようであった。
いまは最寄りまで地下鉄が延伸しているので地下鉄を利用しているが、かつてマンハッタンにあるニューヨーク国際自動車ショーの会場の行き帰りはタクシーを利用していた。朝は問題ないのだが、夕方はちょうど運転士の勤務交代のタイミングになるそうで、タクシーがなかなかつかまらなかった。
あるとき、道端でタクシーを待っていると、黒いリンカーン・コンチネンタルが停まり、「ホテルまで送ってやるよ」といってきた。ロシア系の人が運転していたので、ロシア系のリムジンサービス会社の車両なのだろう。いまどきでいえば「ダイナミックプライシング」のようなものでやや料金は高かったが、許容範囲なので送ってもらうことにした。
ロサンゼルス地区はたいていレンタカーで移動するのだが、夜に飲酒を伴う会食があったのでタクシーを利用して会場に向かうことにした。ロサンゼルス地区では流しのタクシー営業はないので、常宿近くの5つ星ホテルまで向かい、そこのタクシー乗り場で待機していた車両に乗り込んだ。見たところ運転士は白人だったので、つたない英語で話しかけたのだがなかなか反応してくれない。そして目的地の住所を見せてもピンとこない様子。なんとかコミュニケーションをとると、東ヨーロッパから移住してきたばかりとのことであった。
ロシアにおいて、大国意識の高いロシア人は観光業に従事でもしていない限りは、街なかで英語を積極的に話す人は少なく、逆に積極的に英語を話してくる人は周辺国から出稼ぎにきている人が目立っていた。これはタクシーや送迎サービスの運転士でも傾向は同じであった。
いずれも、いまのようにライドシェアサービスが本格普及する前の話。いまではスマホの配車アプリを使えば、ドライバーとは料金の支払いを含め会話の必要もなく目的地まで移動できるのだから、利用者として使い勝手は格段によくなったし、ドライバーも多言語の飛び交うアメリカあたりではとくに仕事がしやすくなったことだろうと感じている。
ただ筆者はタクシーが好きなので、いまでもタクシーを積極利用するようにしている。最近では日本人とわかると自分のスマホの翻訳アプリを使って積極的にコミュニケーションしてくる運転士もいて、英語が公用語ではない国でも目的地まで会話が盛り上がることもある。テクノロジーの進化は生活を豊かにすることを体現する瞬間である。
日本でも今後、外国人運転士が本格的に働きだせば、「言葉は大丈夫か」といったネガティブな報道も目立ってくるかもしれない。ただ、日本の周辺国や東南アジアの国々では、若い人ほど少なくとも日本人以上に英語が堪能なことが多いので、インバウンド(訪日外国人旅行客)にとっては外国人運転士が増えることは喜ばしいことかもしれない。
いずれにしろ日本でも、今後はタクシーだけではなく、バスに乗っても外国人運転士が運行業務についているといった姿が珍しくなくなることだろう。