M1そしてZ1やi8につながる歴史的モデルの始祖
そして、M1やi8に通じるスタイリッシュなボディも当時のBMWらしいディテールやこだわりが散りばめられています。コンセプトモデルらしいといってしまえばそれまでですが、1972年当時としては見る者の目を奪う仕掛けばかり。
たとえば、丸いヘッドライトが主流だったころにリトラクタブルヘッドライトを用いたり、上下に薄いドアをガルウイング化したり、あるいはリヤタイヤハウスをカバーで覆うデザインなど、まさに全部載せってくらいの勢い。
デザイナーはフランス人のポール・ブラックで、彼は当初メルセデス・ベンツでW107など縦目、羽ベンのデザインで頭角を現した人物。後のM1はジウジアーロによるデザインとされていますが、BMWターボのプロポーションやディテール(リヤエンドにふたつのエンブレムをつけたり、シャークノーズ風のフロントセクションなど)が継承されていることは誰の目にもわかるポイントかと。
さらに、ポール・ブラックはインテリアデザインも得意としており、BMWターボのコクピットを見れば、ドライバーオリエンテッドな風景がそれを如実に語っています。メーターパネルやブレーキコントロール、ライトのインジケーターまでもがドライバーに向けられ、これまた現代のBMWが綴るデザインフィロソフィそのものといっていいでしょう。
BMWターボがコンセプトモデルに終わらなかったもうひとつの証左は、パリの翌年に開催されたIAA(フランクフルトモーターショー)に向けて2台目のモデルが作られたこと。
むろん、初代と同じくエンジンを積んだ走行可能モデルで、これは後に風洞実験やサーキットテストにも用いられたとのこと。M1は発表年次こそ1976年ですが、それはイタリアのチームとのいざこざが長引いたせいであり、BMWターボをベースとした開発はすでに1974年にはおおむね完了していた模様。つまり、BMWターボは直接的なM1のご先祖さまであり、Mモデルの始祖となったこと疑いようもありません。
すると、i8やZ1といったイカしたモデルと似通っていることも大いに頷けるのかと。コンセプトモデルにこれだけの要素を詰め込み、しかも市販モデルにしっかりとフィードバックをしてきたBMW。「駆け抜ける歓び」、このひと言だけでは到底あらわせないスケールを感じさせてくれるメーカーに違いありません。