ロードノイズも少なくしなやかな足まわりに好感
今回試乗したモデルは、WR-VのZグレードである。WR-Vには「Z+」という最上級グレードと「Z」、そして「X」というエントリーグレードの3タイプが設定されている。ちょうどその中間グレードであるZグレードに試乗したというわけだ。
試乗車の車両価格は235万円であり、最上級のZプラスより10万円安く、またXグレードはそれをさらに大きく下まわる208万円のプライスタグがつけられている。
さて、エンジンを始動して走り出してみよう。エンジンは1.5リッターの直4DOHCだ。近年は、電動化モデルのEVやハイブリッドモデルなど、モーター駆動あるいは電動アシストによってクルマを走らせることが多いので、純ガソリンエンジンのみの発進時はトルク特性に不足感が感じられるかと思ったが、WR-Vは低速トルクが豊かで電動モーター付き車と比べても勝るとも劣らない発進性のよさを感じ取ることができた。
CVTは、ステップ比が7段階に設定されていて、エンジンを7000回転の高回転までアクセル全開でまわすと7速ミッションのような使い方ができるというが、一般道の試乗においては、アクセル全開でエンジンを7000回転まで引っ張るような状況は起こり得ないので、そうした部分を確かめるにはサーキットなどにもち込むしかないが、WR-Vにはそうした試乗は必要ないだろう。
一般道で通常の流れに沿った走行においては、エンジン音が非常に静かで、シャシーのNVHにも優れ、また室内への遮音性も高く快適な乗り心地が得られていることがわかった。サスペンションのショックアブソーバーはSHOWA製だが、国内で売られているどのモデルよりもサスペンション設定がしなやかに感じられて好感が持てる。ロードノイズも少なく静かで快適な乗り味となっているのだ。
ステアリングはシングルピニオンの電動パワーアシスト機能で支えられており、直進安定性はパワステのアシスト力で高く保たれている。ステアリングのセンタリングも座りがよく、操舵力はやや重めだが手応えのしっかりした安心感のある走り味に仕上げられている。
ただ、路面に多少アンジュレーションがあったり、段差を通過するときなどはハンドルが勝手に切り込まれていったり、またセルフアライニングトルク(SAT)が減少したりして自力でステアリングを戻さなければいけない場面などが感じられた。
これはキャスター角が小さいために起きているのではないかと感じられたが、のちにエンジニアに確認したところ、やはりキャスター角が小さいとわかった。それはグレイスセダンのフロントまわりを流用しているため、衝突安全対応などによる位置決めなどからキャスター角を立てざるを得なかったというような返答があった。
ただ全般的にはフラットな路面で走っている限り、そうした癖は現れず、その辺りは今後さらに進化させられていくことと考えられる。また、大人4〜5人が乗っていればリヤの車高が少し下がることで相対的なキャスター角が増えるので、その辺りのステアフィールもより自然なものと感じられるようになった。
一般道での試乗では全開走行や限界特性などは試しようがないが、電子制御系は基本的に国内のヴェゼルなどと同じようなものが備わっている。しかし、ホンダセンシングといわれる誤発進抑制制御や衝突被害軽減ブレーキなどは備わっているものの、アダプティブクルーズコントロールは30km/h以下になると自然に解除されるもので、これは電動パーキングブレーキを備えていないゆえ避けられない選択であったといえる。
電動パーキングブレーキにしなかった理由は、ホンダはかねてよりその電動パーキングブレーキの問題を抱えており、今回インドで生産される地域の要望なども含めてワイヤー式ハンドブレーキでコスト的にも抑えることが必要と判断されたようだ。
また、リヤブレーキはドラムブレーキであり、そういう意味では純ガソリンでハンドプルアップ式のハンドブレーキを備えたガソリンエンジン車としては最後の世代になるのではないかと思われる。
タイヤは17インチで215/55のサイズのブリヂストン・トランザが履かれていて、これもやはりインドで生産されたタイヤが装着されているという。全般的にインドの工場は設備も新しく、非常に清潔で製度の高い製造工程が組まれており、日本の工場生産のものと比べて劣っている部分はまったくないといえる。
個人的には4WDシステムを持たないSUV車はあまり好きにはなれないが、都市部のユーザー、非降雪地帯のユーザー、また初めてSUVに乗る人など、SUVデビューをする第1歩のきっかけとなるには非常に優れたパッケージングと走りで、また価格的な優位性も高く、かなりヒットすることは間違いないクルマに仕上がっているといえるだろう。