まるで4WSのような動きを実現も操るのが難しすぎた! 西堀さんが発明したその名も「ニシボリックサスペンション」とは

この記事をまとめると

■3代目いすゞジェミニには「ニシボリックサスペンション」が採用されていた

■ニシボリックサスペンションは前輪駆動車のアンダーステアを解消するための機構であったが評価されることなく消えた

■現在は電子制御された4輪操舵が増えているが人間の感覚に完全に適合するものではない

ブッシュの弾性とアームの配置で後輪をステアさせる

 ニシボリックサスペンションとは、西堀稔という人が発明したとされる後輪側のサスペンション形式だ。日本人が発明し、その名前が付けられた点において、誉れ高いといえる。一方、その効果は必ずしも芳しくなく、いすゞの3代目ジェミニに採用されて1990年に発売されたが、2代目ジェミニの爆発的人気には及ばなかった。

 ジェミニは初代が後輪駆動であったのに対し、2代目から前輪駆動となった。続く3代目も前輪駆動で、一般に前輪駆動車はカーブを曲がる際により大きく外側へはみ出そうとする特性、いわゆるアンダーステアが出やすいとされ、それを解消しようと試みたのがニシボリックサスペンションだった。

 後輪側のサスペンションのロアアームを、2本の平行したアーム構成とし、そのアームの取り付け方に工夫を加えることで、4輪操舵的な動きを与え、カーブでより曲がりやすく、かつ安定した走行を狙いとした。

 現在の4輪操舵は電子制御を用いるが、ニシボリックサスペンションは、特別な制御を用いることなく、サスペンション取り付け部のブッシュの弾性と、平行する2本のロアアームの配置の仕方で、4輪操舵的な動きを後輪に与えようとした。

 ハンドルを切ってカーブに入ろうとするとき、まずブッシュの弾性を利用して後輪が若干外側へ向くようにする。これにより、カーブへ向かって曲がりやすい走りになる。続いて車体が遠心力で傾くと、平行した2本のアームの配置から、後輪が内向きになり、これによって旋回中の安定性を出そうとした。

 しかし、クルマの走りは、運転者のハンドル操作の仕方や、カーブの曲率、あるいは路面状況(傾斜や凹凸など)によって千差万別で、机上の計算どおりに走るわけではない。たとえ狙った効果は出せても、その成果が必ずしもその旋回時に最適に適応するかは定かでない。このため、運転感覚として、余計に曲がり過ぎる感触があったり、旋回中にふらつく印象があったりするなど、違和感がともなうことになった。

 かえって神経を使うような操縦性となることがあり、ニシボリックサスペンションの評価は厳しいものになった。

 後輪駆動であろうと前輪駆動であろうと、本質的な特性は形式がもたらすやむを得ない挙動で、それによるアンダーステアやオーバーステアといった特性は、運転者が、速度やハンドル操作などを調整することによって対処すべきだ。そうやって速く、安定して走れるようになれば、運転技量が上がったと自信も持てる。

 前輪は、操舵によって進路を定め、後輪は安定性を保つ役目がある。それぞれの役目を外れるような機構は、なかなか適切には機能しにくい。

 今日の電子制御された4輪操舵は、精緻な制御によりさまざまな走行状態で違和感のない運転感覚をもたらすが、後退させる場面では、人間の感覚に適合しにくい面もあり、やはり完全なものではない。

 前輪と後輪の本来の役目を愚直に正していくことが、人間の感覚になじむ素直な操縦安定性をもたらす基本である。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

新着情報