1000馬力・時速400km/hというスペックに驚愕
そのロッターシュミットのもとに、ある連絡が入ったのは1990年代初頭のことだった。その相手は何とメルセデス・ベンツ。聞けば石油の取引で莫大な富を得たカスタマーが、ほかに誰も手に入れることができない、つまりワンオフのスーパーカーを所有したいと望み、メルセデス・ベンツにその製作を依頼してきたというのだ。
当然、当時のメルセデス・ベンツにはそのようなリクエストに対応する部門はなく、そこで抜擢されたのがロッターシュミット率いるローテックだったというわけだ。代わりにメルセデス・ベンツからは、その製作費のほかに6リッターの60度V型12気筒エンジンなど、必要なメカニカル・コンポーネンツが提供されるという条件である。
ローテックでは、まず当時の自動車や航空機に使用されるもっとも軽量で最新の素材、クロームモリブデン鋼管とカーボンファイバーの複合材を用いたフレームが設計された。
ボディデザインはこのフレームと同様にロッターシュミット自らが描いたもので、左右のドアはシザース式、全体的に滑らかな曲線を基調とする、いかにもエアロダイナミクスに優れた造形を持つボディが完成された。
ヘッドライトは、当初は3連式だったが、これは後に2連式へと改められている。エンジンフードは透明で、外部からもメルセデス・ベンツのV型12気筒エンジンの姿を見ることができるのは素晴らしい演出だった。
搭載された6リッターエンジンには、2基のKKK製ターボチャージャーが組み合わされ、その過給圧は0.85バールと1.20バールの2タイプを設定。最高出力は各々1000馬力、1200馬力が6300rpmで発揮された。同様に最大トルクは1100Nmと1320Nmが3400rpmで出力。組み合わせられるミッションはCima製のオイルクーラー付き6速MTで、デファレンシャルにもLSDが与えられた。
カーボン製のボディパネルを採用するなど、徹底的な軽量化によって1280kgの車重を得たシリウスの運動性能はやはり特筆したもので、0-100km/h加速は3.8秒、0-200km/h加速も7.8秒で走り抜けた。最高速は400km/h以上と発表されたが(430km/hと記載された資料もある)、残念ながらこれらは実測値ではない。
いまからおよそ30年も前に誕生したローテックのスーパーカー。1000馬力、400km/hという数字が与えたインパクトは、現在とは比較にならないほどに大きかったのである。