若き日にヨーロッパ中を走りまわったルノー5が崖下へ…… 【ドラマチックな愛車との別れ 石橋 寛編】 (2/2ページ)

眠気に襲われ気がついたら急カーブ!

 さて、廃車事件はフランスのニース、名もなき山中で起きました。学校の友人と連れ立って、モナコGPを観戦に出かけた際のことです。ご存じのとおり、グランプリウィークのモナコはノミがいるような安宿でもバカ高で、しかも満室。筆者たちはモナコから1時間弱のニース山中に宿をとったのですが、いまと違ってナビもありませんし、ミシュランの地図もおおざっぱ(笑)で、迷いに迷って到着したのは夜の10時も過ぎるころでヘロヘロとなっていたのです。

 が、民宿のマダムは「コックが帰っちゃったから、腹減ってるならこの先のビストロ行きな」とクールな対応。仕方なく、そこからさらに30分ほど山奥に進んだ食堂へと向かったのです。ところが、クールに見えたマダムでしたが、あらかじめ連絡をしていてくれたようで、食堂では大歓迎を受けたのです。コックのジジイは初めて日本人に会ったとかで、ステーキだのエビだの大盤振る舞いの大サービス。腹パンになっただけでなく、旅先のあたたかな情にふれたことで筆者は涙が出るほど感動していたのです。

 ですが、感動の次にくるものといえば睡魔、眠気にほかなりません。若いといってもドイツからぶっ通しで南仏までドライブしてきたのですから、食堂を出てクルマに乗るやいなや友人たちは高いびき。筆者も最初のうちこそ真っ暗な山道を真剣に走っていたのですが、どうしようもない眠気に襲われていました。うつらうつら、フラフラとカーブをこなしていった次の瞬間、目に入ったのは「直角カーブ注意」的な標識だったと思います。

 ですが、気づいたときにはガードレールもなにもない谷側へまっしぐら。「ヤバイ! ガソリンタンクはリヤエンドだったっけ」と思う間もなくフロントから着地。映画みたいな爆発を心配したのですが、さほどの勢いもなかったのでしょう。それでもブレーキは役に立たず、ごつごつした岩の多い急斜面をまあまあな勢いで落ちていったのでした。

 そしてルノー5アルピーヌは崖の下にふんわりたどりつくと、スローモーションのように前転。さかさまになった状態で止まったのです。その瞬間、筆者をふくめて全員が大爆笑。誰ひとりケガを負うこともありませんでしたが、命からがらの転落だったにも関わらず、あんなに笑ったというのは不思議でなりません。こういうのを若気の至りというのかもしれませんね。

 転落現場から1時間ほど歩いて宿に帰りつくと、さすがにマダムは「どこ行ってたのよ」と鬼の形相。筆者が得意のフランス語で(ウソです)事の次第を告げると「あそこは地元のバカがよく事故る」とあきれ顔を浮かべられてしまいました。

 その後、保険会社と相談した結果、クレーンで持ち上げる費用に対して車両の査定額が見合わないという理由から泣く泣く廃車にすることに。翌日のグランプリを観戦した後で、筆者がクルマのもとへ行ってみるとアルパインのカーオーディオ一式がまるごと盗まれていたというオチもつきました。

 後にも先にも廃車はこれ一度きりですが、どんな理由だろうと切ないことには変わりありません。こうして公にさらすことで、笑い話へ変えられるのが救いといえば救いです。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

文筆業

愛車
三菱パジェロミニ/ビューエルXB12R/KTM 690SMC
趣味
DJ(DJ Bassy名義で活動中)/バイク(コースデビューしてコケまくり)
好きな有名人
マルチェロ・マストロヤンニ/ジャコ・パストリアス/岩城滉一

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