トヨタがかつて得意とした「後出しジャンケン戦法」こそが日本の自動車業界を活性化させていた! 今こそ「怖いトヨタ」の復活を!! (2/2ページ)

後出しは自動車業界を活性化させる機会でもあった

 フィットの発売から約6カ月後には、共通のプラットフォームを使うコンパクトミニバンのホンダモビリオが登場した。燃料タンクを前席の下に搭載するメリットは、ミニバンでこそ最大限度に発揮される。3列目シートの床下に燃料タンクが配置されず、床と座面の間隔を十分に確保できて、3列目に座っても膝の持ち上がる窮屈な姿勢にならないからだ。

 このモビリオに対抗するトヨタ車が、2003年9月に登場した初代シエンタだ。薄型燃料タンクを開発して、モビリオと同様、床と座面の間隔を十分に確保した。シエンタもヒット作になっている。

 ちなみにモビリオの後継となるフリードは、前席の下に燃料タンクを配置するレイアウトをやめてしまった。そのために、モビリオに比べて床と座面の間隔も不足して、膝を抱えるような着座姿勢になっている。

 その点でシエンタは、いまでも薄型燃料タンクを使い続けている。方針を変えるホンダと育てるトヨタ。この違いは両社のさまざまな面に当てはまり、本質的な違いに結び付いている。

 トヨタの追撃が決定的だったのは、2000年に登場したホンダ・ストリームだ。ワゴン風の3列シートミニバンで、スポーティな雰囲気も併せ持ち、一躍人気車になった。これに対抗してトヨタは、ほぼ同じサイズの初代ウィッシュを2003年に投入した。

※写真はマイナーチェンジ後の初代ストリーム

 2003年の時点で、ストリームで売れ筋になる1.7Sの価格は170万円、ウィッシュで代表グレードの1.8Xは若干安い168万8000円だ。外観、サイズ、機能、価格まで、すべてにおいてウィッシュはストリームに対抗した。販売合戦の結果は、ウイッシュの勝利となった。

 以上のようなトヨタのやり方は、当時は執拗で嫌な印象を受けたが、いまでは懐かしい。なぜなら販売の好調な他社製品を追撃する当時のトヨタは、自動車業界全体に緊張感をもたらし、他社の商品開発や販売を活性化させたからだ。ホンダの低床設計など、トヨタに鍛えられたといっても大げさではない。

 ところがいまのトヨタは妙に物分かりがよくなり、3代目ヴィッツなどは、リーマンショックの影響もあって質感を大幅に下げた。もはやいい意味で怖いトヨタではなくなり、緊張感も薄れ、国内市場は商品開発、販売面ともに伸び悩んでいる。日本のクルマ作りは、良くも悪くも、トヨタに大きく左右されるのだ。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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