クーラーが付いていても「使わない」ことが大切だったりもする
■まるで白鳥の水面下の足の動き? 手動ウインドウの操作
1970年代の後半くらいのクルマでは、高級車から徐々に「パワーウインドウ」の装備が普及していきました。出始めの頃などはオプション扱いでした。そのため、それより古い年式の車種や低グレードの個体では、ウインドウの開け閉めを手動でおこなう「手巻き」があたりまえでした。
やったことがある人はわかると思いますが、全閉から全開まで、あの短くて重たいウインドウのハンドルを10回転くらいしないと全開になりません。春から秋にかけての窓を開けっ放しでいい時期なら駐車するときくらいしか開け閉めしませんが、窓を閉めておくのが基本になる冬時期は大変です。
たとえば高速や有料道路の料金所では、チケットを取るために全開まで開けて、寒いのでチケットを取ったらすぐ閉め切らないとなりません。都合20回転するわけです。これ、運転に慣れてくると発進しながら窓を閉める操作を同時におこなうようになるので、けっこう忙しくなります。
これは半分笑い話として語られるケースですが、パワーウインドウが普及し始めたころに、自分のクルマを上級クラスだと見栄を張りたいがため、手巻きなのに、外から見えないヒジから先だけを気合い入れて全力で回して、さもパワーウインドウかのように見せるという振る舞いが流行った時期があった……らしいです。もちろんそのときはハンドルのほうなど見ずにノールック&ポーカーフェイスが必須です。室内から見たら苦笑モンのおこないですが、マニアになるとどれだけ肩を動かさずにできるかが評価のポイントだった、なんていう話も聞きました。
■室内にミニ扇風機を付けてやせ我慢するこだわり
夏場の旧車のミーティングに行ったことがあるという人なら、何割かの旧車の室内に、ハンドボールくらいのサイズの小さな扇風機が備えられているのを見たことがあることでしょう。あれも、旧車乗りではない人から見たら「意味わからない」と思われていることと思います。
何なら旧車ブームが起こった20年くらい前にはすでに後付けの社外クーラーキットが販売されていましたので、その世界に入ったばかりの私は「なんでクーラーを付けずに扇風機なんかで凌いでいるんだろう?」と疑問に思っていました。
しかし自分でも旧車に乗るようになると、それが自然になんとなく共感できるようになっていたのです。要するに、好きになったクルマに余計なものを装着したくないという心理が大きく働く、という要素が理由として大きいと感じました。
またこれは今のクルマでも同じですが、クーラーにパワーを食われてしまうので、ただでさえ心細い低速トルクがさらに薄くなり、発進の半クラが少しシビアになったりします。そして無視できないのが、燃費がガクンと落ちてしまうことです。
なかにはエンジンをチューニングしていてその性能アップが自慢だったりする人にとっては、よけいにクーラーが邪魔な存在に感じる意識が強まります。その場合は発熱量も上がっているので、よりオーバーヒートのおそれが高まるという実用面でのデメリットもありますね。
15年くらい前ならまだ真夏の暑さも扇風機で乗り越えられますが、夏の暑さは年々厳しくなる一方です。今はやせ我慢していると熱中症まっしぐらなので、夏も乗るなら割り切ってクーラーを装着する、というケースも増えています。
とまあ、旧車に乗っていて体験する苦行のような出来事のうちの代表的な4つを紹介しましたが、旧車乗りが集まって談笑していると、これらの出来事はすっかり笑い話として消化され、たいしたことはなくなっているような雰囲気になっています。むしろそれを補って余りある魅力が旧車にはいっぱい備わっているので、多少の苦労はむしろ愛着がわく材料でしかないというポジティブな気持ちで乗り続けられるのでしょう。みなさんもこっちの扉を思い切って開けてみませんか?