タクシーでもバスでもない位置を目指す
今回、日産がこのような実験に踏み切った理由には、「移動の危機」があったという。というのも、コロナ禍もあり、地方では利用客減少に伴うバスやタクシーが激減している状況があるという。その数、2020年から2024年の現在までに20%減というデータが出ている。距離でたとえると、バスでは8667kmも減少しているそうだ。ちなみにタクシードライバーの平均年齢は58.3歳。こちらも高齢化が顕著だ。高齢ドライバーの免許返納に関する話題が大きくなる一方で、タクシー業界では真逆の現象が起きている。
この実証実験で日産は、移動の自由をより普及させ、次世代の移動を目指すとのことだ。これは、「タクシーでもバスでもない」乗り物という位置付けになるようで、タクシーやバスのライバルを想定しておらず、パッセンジャービークルではないとのこと。あくまで公共移動の1種だそう。
将来的にこの自動運転車は、バーチャルやデジタル技術を用いた停留所を設置して、「どこにいても1分歩けば停留所」というのをコンセプトとしている。「どこから乗り降りしてもいいじゃん」という声もあったようだが、これは「公共交通機関=停留所」という認識が強い高齢者に向けた配慮だという。
なお、この実験では2025年より実際に乗客を乗せてテストすることを想定している。
まずは、観光客や仕事で神奈川県外から訪れるユーザーをターゲットとし、その次に横浜市民に乗ってもらうように段階を踏むとのことだ。最初に20台しか用意しないので、この台数で足りるかどうかも様子を見ながら判断するそうだ。
2027年からは有償化する予定で、価格は路線バス以上タクシー未満あたりになるよう考えているようだ。あくまで利益を生むためにやるサービスではないというスタンスだ。
日産の自動運転に関する研究を行なっている総合研究所の所長である土井三浩氏は、「タクシーは1メーターごとに料金が上がっていくような仕組みかつ人が動かすので、使いづらいという声も多いので、気兼ねなく使い倒せるAIのメリットを感じてもらいたい。また、人間ではなくAIが動かす自動運転は、運転が人がやるよりも正確で上手なのが特徴です。実際、日産の看板技術でもある「e-4ROCE」と組み合わせた滑りやすい路面では、人間よりも素早く反応し車体を安定させます。こういった技術と自動運転はとくに相性がいいのが特徴です。自動運転技術の進化によって、より安心で安全なクルマが生まれると思います」と語ってくれた。
いよいよ「自動運転? そんなのまだまだ先の話だし俺たちには無縁だね」といえない段階になってきた。確かに、自動運転が普及すれば人間がクルマを操るという喜びは薄れ、無機質で楽しくない乗り物になってしまうかもしれないし、「そもそも自動運転に頼るような人がクルマに乗るな」なんて声も一部からは聞こえる。
しかし、ヒューマンエラーは絶対に避けられない要因であるし、人間である以上どんなに運転が上手い人であっても疲労や睡魔から逃げることは不可能。機械も誤作動を起こすかもしれないが、とある分野ではエラー率は人間の半分以下ともいわれており、人間よりはリスクが低い。今後、その数値はよりブラッシュアップされるはずだ。
そして、どこでもある程度運転できる人材の育成も、そう簡単にはいかないのが実情。それがまさに今の社会で起きていて、人手不足を誘発している。そんな問題に、人やクルマがあってこその自動車メーカーが先陣を切って実験を行うのは大きな意味があるといえる。
夢の世界はもうすぐそこかもしれない。