この記事をまとめると
■電子制御がなかった時代、クルマを動かすのにはいろいろな操作が必要だった
■キャブレターの燃料調整やクラッチ操作など電子制御は一切なく、アナログな状態だった
■アナログでレスポンスが悪いので、常に周囲の動きを予測して運転することが必要だった
かつてのクルマは動かすだけでもひと苦労!
電子制御がクルマに導入されたのは、1970年代後半の排出ガス浄化からだ。排出ガス中の有害物質の濃度から、燃料噴射の量を調整するなど、電子制御=コンピュータ制御が使われるようになった。
それまで、エンジンで燃焼する混合気は、キャブレターと呼ばれる装置で供給されていた。空気(吸気としての外気)の流れる速さに応じ、ガソリンを噴き出させるアナログ方式で、その空気の流れはアクセルペダルの操作で調整された。
キャブレターを使っていた時代は、エンジンを始動させるだけでも無造作にはできなかった。チョークと呼ばれるガソリン調整レバーを運転者が調節し、やや濃い目のガソリンをエンジンに送り込むことにより、冷えたエンジンでの着火を促した。それでも、始動に失敗することがあり、操作をやりなおさなければならない場合もあった。
エンジンが始動するかしないか、そこは、人と機械との相関関係で、エンジンの様子をうかがいながら運転者はチョークでガソリン濃度を調整した。
発進におけるクラッチ操作も、クラッチの断続の際にクラッチの摩擦に応じてペダルのつなぎ加減を調整する左足の技が必要だった。クラッチは、新品のときと減ってきたときとで繋がり方が変わるので、左足操作の加減の適応が必要で、それをしくじるとエンストしかねない。いまでは、マニュアルシフトでもエンストしない仕組みもあるが、昔はそんな親切な対策はなかった。
パワーステアリングがなかった時代は、予測運転が不可欠だった。走行しながら曲がるときは問題なくハンドルをまわせても、停車したままハンドルを切れるようなことは、操舵力が重すぎてできない。
したがって、交差点での右左折や、切り替えしなどでは、あらかじめ曲がる方へハンドルを切りはじめておくといった事前の操作が必要で、それが予測運転につながる。
クルマの状態、エンジンの始動性やクラッチのつながり具合を感じ取り、運転中も先々の進路を見定め、予測運転で操作を補助する準備が不可欠だったのだ。それは、クルマを気遣い、道路を使う他の交通へも目配りし、広い視野で運転する気配りを促した。それはあたかも、機嫌を損ねると一歩も動かない馬を操るのに似ている。
自己中心的な操作では、運転が下手だといわれ、同乗を嫌がられることにも繋がった。逆に現代のクルマは、自己中心的な人間の身勝手を許すつくりになっている。そのことが、交通事故を誘発し、ドライブレコーダーに頼る社会を生み出したともいえるかもしれない。
しかし、クルマを想い、クルマが走りやすい運転を心がけ、ほかの交通利用者へも配慮する心がけは、昔も今も変わらない、クルマを運転する人の普遍的責務といえる。