ダウンサイジングターボの登場が状況を変える
あらためて、ターボという仕組みを整理すると、排ガスの熱エネルギーによって風車をまわし、その反対側についているコンプレッサーで吸気を圧縮(過給)することで、自然吸気エンジンよりも多くの空気をシリンダー内に送り込むというものだ。
熱エネルギーの再利用という点においては、たしかにエンジン全体としての効率はよくなるはずだが、しかし昭和から平成にかけてのターボエンジンには、そうしたエコ要素は感じられなかった。
その背景として、過給することのメリットを燃費ではなく、パフォーマンス(出力)に振っていたというのもあるが、技術的には緻密なノッキング対策が難しかったという点が挙げられる。
ノッキング(異常燃焼)を防ぐために、エンジンの圧縮比は下げ気味となっていたし、燃焼室の温度を燃料冷却によって下げるために多めの燃料噴射となっていた。さらに点火時期についても安全マージンを考慮して、遅めとなっていた。
実際、当時のターボエンジン車をコンピュータチューンして、点火マップを進角方向に書き換えると、「パワーが増した上に、日常燃費もよくなった」なんてことも珍しくなかった。もちろん、これはマージンを削ったゆえの結果でもあるが、そのくらい安全方向に振られていたのだ。
まとめると、エンジンを守るために過給することで得られる熱効率のメリットが完全に相殺されていたといえる。そのため、「理論上ではターボエンジンは熱効率がいいはずなのに、実際の燃費はよくないよね」というのが常識となっていた。
そんな昭和の常識が変わったきっかけとしては、ガソリン直噴技術が生まれたことが大きい。前述したように燃料冷却によって燃焼室温度を下げる際、シリンダー内に直接ガソリンを噴射する直噴技術というのは無駄な燃料を噴かずに済むというメリットがある。
また、エンジン制御においてはスパークプラグのダイレクトイグニッション化が進んだこともターボ本来の高効率を引き出す進化として無視できないものだ。ノッキングをガソリン直噴や点火時期の適切な制御によって抑え込むことができるようになると、エンジンの基本的な効率に影響する圧縮比も上げることができる。
2000年代以降は、パワーより燃費を求めるユーザーマインドが強くなっていく。ターボ+多段AT(CVT)を組み合わせることで、低回転を維持しながらで過給を利用することで十分なパフォーマンスを発揮するという味付けが「常識」となっていく。
ほかにも、EGR(排気再循環)という燃焼済みガスを再度シリンダー内に送り込むことで燃焼温度の低下やスロットル損失を減らす技術が、過給エンジンと相性がよいことも、ターボエンジンの省燃費イメージを高めた部分もあるだろう。
もちろん、日本のハイブリッド技術に対抗して欧州系メーカーが小排気量エンジンにターボを組み合わせたパワートレインについて「ダウンサイジングターボ」というキーワードで喧伝したこともイメージチェンジには大きく影響した。
こうしてターボエンジンは、エコ技術のひとつとして認識されるようになり、クルマの常識が書き換えられた……というのが量産ターボ技術についての大筋の流れといえる。