この記事をまとめると
■EVの回生はバッテリーが満充電だと磁力による減速効果が得られない
■もし下り坂で回生が得られないとブレーキに悪影響が出る
■出発前に充電量を調整することで抑制できる可能性もある
いつでも回生が働くとは限らない!?
エンジン車ではできないことのひとつが、電気自動車(EV)における回生(かいせい=リジェネレイション)だ。ただ、厳密にいえば交流発電機を使って、12ボルトの補器用バッテリーへの充電を減速時に行う事例はある。
リジェネレイションとは、再生を意味する。つまり、発進や加速で使ったエネルギーを、再生(意味的には回収)することを示す。技術としては、駆動に使ったモーターを減速では発電機に切り替え、クルマが走るという速度のエネルギーを、電気に替えて車載バッテリーに充電する。
回生があることにより、EVの電力消費(エンジン車でいう燃費)は、カタログ表記では平地での加減速で計測されるが、登り・下りのある実際の道路では、必ずしもそのとおりの電力消費でない場合がある。
例えば、登り坂が続けば電力消費が増えてバッテリーの充電はどんどん減っていく。一方、下り坂が続けば、回生によってバッテリーが充電されていく。同時に、回生により発電する際は磁力の働きによって抵抗が生じ、エンジンブレーキのような減速力も働く。
ところが、下り坂に差しかかったとき、バッテリーが満充電の状態だと、回生によって発電した電気を溜めることができず、行き場がなくなる。したがって、回生により期待された磁力による減速効果が得られなくなり、フットブレーキでの減速に頼らざるを得ないことになる。
例えるなら、エンジン車でエンジンブレーキの利きにくい高い変速ギヤで走り、速度調節の減速をブレーキに依存するような坂道の下り方だ。下り坂が長く続けば、ブレーキが過熱しすぎてフットブレーキの利きが悪化する懸念が生じる。
なので、例えば山の頂上で満充電にすることは避けたほうがいいだろう。走行しながらの登り下りでは、クルマが自動的に制御するのでその心配はない。
急速充電する際は、基本的に80%までの充電になるので、経路充電を否定するわけではない。だが、標高の高い宿で一晩目的地充電するような場合は、翌日の行程を考慮し、下り坂をまず走ることになると想定されるなら、100%充電にならないよう気を付けるといいだろう。80%程度にとどめる設定の仕方などがあるはずだ。
回生を上手に使うことを身につけると、例えば東京から富士山麓へ向かう行程で、行きは登り坂が続くので電力消費は多くなるが、帰りは下り坂が主体となるので、復路の出発で充電量が50%あれば、回生の多用で往路より少ない電力で帰宅できる計算になる。
EVの航続距離について、単にバッテリー容量と、そこから試算される一充電航続距離だけを論じるのではなく、実際の経路の登りと下りの様子を考慮して移動すれば、必ずしも大容量バッテリーでなくても、上手な充電管理で快適な走りを手に入れられることになる。