BEVメーカーがタクシーを運用する日が来る
そのなかですでに検討段階に入っているともいわれているのが、タクシーやバス事業を地方自治体が担うといった話である。つまり公営化である。
世界に目を向けると、自治体がバス運行事業を担っていることは珍しくない。日本でも大都市を中心に地方自治体や自治体に近い組織(第三セクターなど)でバスが運行されているケースはあるが、今後はそれがさらに広がりを見せるかもしれないというのである。
タクシーにおいても公営化というものが論議されている。
「路線バスの運行路線廃止などに伴い、沿線住民の移動手段確保のために、10人乗りのワンボックス車(トヨタ・ハイエース・コミューターなど)などを用いた乗合タクシーというものを地方自治体が運行することがあります。コミュニティバスは広く運行されていますが、そのコミュニティバスの入れないエリアをフォローするもので、バスのように時刻や乗降バス停が決まっているものもあれば、希望する場所で乗降できるタイプなど種類はいくつかあります。そして、この乗合タクシーの運行委託先は地元タクシー事業者となります。事業者としては自分たちが地域の公共交通を担っているといった責務から請け負うのですが、その委託費用はけっして十分ではありません。さらに、乗合タクシーの運行は、自分たちの本業であるタクシーの稼ぎを減らすことにもつながっており、ある意味自分たちの首を絞めるなか運行委託を受けていることに疑問の声も業界では出てきております。地方自治体ももう少し運行委託費用をアップして欲しいとの話も聞きます」(事情通)
燃料費の高騰も問題だが、そもそもタクシーの主要燃料となるLPガスを供給するガススタンドは全国的に閉鎖が続いており、減少に歯止めが効かず地方ではハイブリッド車やガソリン車がタクシー車両では多くなっているが、地域によってはガソリンスタンドが廃業し、一軒もないといったことも珍しくなくなっている。
そのため、路線バスも含め、地方の公共交通車両から日本のBEV(バッテリー電気自動車)普及は本格化するのではないかとされている。バスやタクシーだけではなく、ガソリンスタンドも廃業が相次いでいるので、過疎地域のマイカーすら給油に難儀している。
日産の軽規格BEVのサクラが大ヒットしているが、地方部で生活圏内の移動がメインの高齢世帯での普及もかなり目立っているとのことである。
ただし、バスやタクシーとなると、日系メーカーのBEVラインアップが少ないので、なかなか日本車でという選択が厳しいのも事実。そこであくまで筆者の私見となるが、外資ブランドBEVの地方での台頭である。中国や韓国などでは日本よりBEVが普及しているだけではなく、市街地ではBEV路線バスやBEVタクシーがすでに多数走っている。つまり、すでに営業運行実績があるのだ。そのノウハウだけではなく、タクシー車両向けに割安なフリート販売専用車両もラインアップしている。
2023年末に開催されたバンコクモーターエキスポ会場には、中国・広州汽車のセダンタイプのタクシーなどフリート販売専用のBEVが展示されていたが、ガソリンエンジンを搭載するトヨタ・カローラ・アルティス(セダン)とほぼ同じ車両価格であった。
日本では過疎地域とはいえ電気は広く行き渡っているので、電力供給網の整備さえ整えばBEVバスやタクシーが地方部から積極的に走り出すことは十分考えられる。前述したように、タクシー事業を公営化すれば地方自治体にアプローチするだけで一気にあるエリアのタクシーのBEV化が進むことになる。
路線バスでも、日系メーカーが2023年に開催されたジャパンモビリティショーへBEV路線バスのプロトタイプを出品したが、そのなかで中国BYD(比亜迪汽車)のBEV路線バスが、最近でも首都圏の大手バス事業者に試験的とはなるものの導入されるなど、外資ブランドのBEVバスの勢いは止まらない状況となっている。
また、情報ではベトナムのBEVメーカーはタクシー会社も運営しており、自社製タクシー専用BEVとタクシー事業をパッケージにして輸出しているとも聞いている。仮にこのメーカーが、日本の地方タクシー事業者を買収する形などで進出した際に、車両だけではなくベトナム人運転士までパッケージにして事業展開すれば、働き手不足も一気に解消することになるだろう。その面でも、タクシー事業が公営化されていれば“運行委託先”として指定するだけなので導入はさらに容易となるだろう。
日本の公共交通網の存続は、外資ブランドによって支えられていく可能性も十分に高いものと筆者は考えている。