この記事をまとめると
■日本でのトラックの脱輪事故は1年間に約120件も起こっている
■トラックの脱輪事故の96%が左後輪に起こっている
■なぜトラックの脱輪が左後輪に集中するのかを解説
新ISO方式になったホイールの締め付け方法も原因か
日本国内のトラックの脱輪事故は、近年では平均すると1年間に120件ほど起こっている。その96%が左後輪に起こっている。これにはいくつかの要因があるようだ。
日本だけでなく世界中の道路に共通することだが、水捌けを考慮して道路には蒲鉾型に傾斜が付けられている。左側通行の日本の場合は、左側のほうが若干下がっているため左側の車輪に荷重がよりかかりやすい。つまり、走行中は左側後輪に繰り返し、衝撃力が多く伝わっていることになるのだ。
さらに、左折時には小まわりとなるため、ホイールに捩り力が発生してホイールをたわませるから、これもホイールナットの座面やハブ面との摩擦などが発生し、ナットが緩む原因になる。ホイールナットが緩むと、ホイールボルトに直接荷重がかかることになり、ボルトの折損が続いてホイールが脱落することにつながるのだ。
現在は新ISO方式になったホイールの締め付け方法が原因のひとつとも思われる。従来採用されていたJIS方式では、左側のホイールナットは逆ネジだった。
それが2009年から日本でも新ISO方式に変更され、これにより左側のホイールナットも正ネジに変更されたのだ。クルマの保安基準を国際化する動きは乗用車でも商用車でも進められているが、トラックのホイールナットに関してはJIS方式を維持するべきだったのではないだろうか。
なぜなら、左ハンドルで右側通行の欧州(英国のみ左側通行)では、左後輪のホイールナットばかりが緩むという現象は確認されていない。ならば右側後輪が緩みやすいかというと、路面の傾斜と右折が小まわりとなってホイールが歪みやすいという問題はあるものの、ナットが正ネジなので緩みにくいのである。
それでもしっかりとメンテナンスされた車両は、ホイール脱落事故を起こしていないのだから、やはり適切な方法での点検整備が重要という意見も納得できる。
しかしながら、新ISO方式のホイールナットを採用しているトラックのほうが、ホイール脱落事故を起こす割合が高いのも事実。2020年度には131件のホイール脱落事故が発生しているが、そのうちの125件が左後輪で発生しており、120件が新ISO方式なのだ。
新ISO方式で問題なのはネジの方向だけではない。JIS方式ではホイールナットの座面は球面でホイールに食い込んでセンター出しを行う構造となっていた。しかし、新ISO方式では、ホイールナットの数を8本から10本に増やしているものの、ナットの座面は平坦でホイールを横から押さえているだけだ。これでは少しでも緩むとホイールが動きやすく、さらに緩みやボルトの折損を起こしやすくなる。
忙しいトラックドライバーにとっては、まめにホイールナットの点検をするのは手間が増えてしまって大変かもしれないが、事故を防ぐためにも自分でも(法人でも仕組みを整えて)点検整備することが事故を防ぐために重要だ。