「つねに見られている」という意識から事故や違反が減る
「小学生の頃、映画『トラック野郎』を見てトラック運転手に憧れ、自身が24歳で長距離運転手に転職し、32歳で三栄急送を設立しました。当然デコトラが好きだったので、自分が運転するトラックはもちろん、1台ずつ増車するたびに飾りは付けていました。もちろん改造費だけでもかなりの金額にはなってしまいますが、飾りを続けているからこそ、地元だけでなく全国から当社で働きたいという意欲をもったドライバーが集まってくれます。彼らは真冬でも洗車を欠かさないほどトラックを大事にしてくれますし、リヤ観音扉のペイントも『つねに他人に見られている』という意識で、事故や違反が減るという効果もあります。看板を背負っているというドライバー達のプロ意識が高まったから会社としても効果はありますね」。
「長距離を走るドライバーは家よりもトラックで過ごす時間が圧倒的に長い。だからこそ内装も全車レザー張りに改造し、居心地の良い空間で運転に集中し、しっかりと休養を取って欲しい」と見た目に注目が集まりがちな外観だけではなく、内装までしっかりと造り込まれた極上サロンのようなキャビンにカスタマイズされているのだ。
苦労する点はというと、派手な飾りを施したトラックは荷主に敬遠されるというのが通説だが、三栄スタイルの飾りは仕事に支障をきたさない範囲内でセンス良く飾っているので取引先の評判も上々。なによりも業務で信頼を得ているので、野暮な話は心配ご無用。もう一つの懸念材料である改造費も、会社の理念として利益追求よりも社内体制を整えることに注力し捻出。修理工場も自社で完備。外注時には年間4000万円掛かっていた修繕費が部品代だけで済むように。給油スタンドも自前にすることで経由の高騰によるコストアップを最小限に抑え、運送費への転嫁を避けることも可能に。車両も毎年2台ずつ入れ替えることで故障コストも燃費も向上。その結果、経費の削減や運行管理が行き届き信用獲得に繋がっているとのことだ。
飾ったトラックで仕事がしづらい現在、敢えて逆張りするようにも見える三栄急送。しかし実際にはメリットの方が遥かに凌駕しているビジネスモデルであった。アートカンパニーの風雲児である三栄急送飛躍のストーリーは多くの輸送会社にとって指標となる存在だ。