上り坂ではむしろFFより強いことも
なかでもとくに後輪駆動に有効なのが、トラクションコントロールだ。雪道で後輪を駆動することが要因となって起こるさまざまな現象に対して、アクセル操作が原因で起こるものをトラクションコントロールがあれば払拭することができる。アクセルを踏みすぎて後輪の空転を適宜抑えてくれるし、テールスライドすることがない。
逆に、トラクションコントロールが効いてパワーをしぼったせいでスタックして進めなくなったようなときには、トラクションコントロールを切ってアクセルを踏み増せば脱出できる可能性が高まる。
さらに、横滑り防止があれば、アクセル操作だけでなく何らかの原因でテールスライドしそうになっても、4輪のブレーキを個別に適宜つまんで、姿勢を安全な状態に立て直してくれる。また、ABSは駆動方式を問わず、タイヤがロックして舵が効かなくなることを防いでくれるし、かつてはかえって伸びるといわれた制動距離も、最近のものなら人間がコントロールするよりも短く止まれるケースが多い。
逆に、前輪駆動に対して大きなメリットを感じるシチュエーションがある。それは上り坂だ。前輪駆動だと空転して登れないような勾配でも、後輪駆動ならなんとかなる。そもそもゼロ発進でも、クルマというのは発進時に荷重が後ろに移るので、トラクションがかかりやすくなる。逆に前輪駆動だと、トラクションが抜けやすくなるわけだ。
最近、ヨーロッパ勢でもともと前輪駆動車が主体のメーカーでも、BEVでは後輪駆動を採用するケースが増えてきたのは、たとえ降雪地でも後輪駆動でも大丈夫というか、むしろメリットのほうが大きいと判断したという事情もあるのではないかと思っている。
ただし、もちろん4WDには絶対にかなわない。後輪駆動で雪道をドライブすると、電制デバイスが作動していることを示すランプがひっきりなしに点灯しているのに気づく。基本的な特性として、後輪駆動は不安定になりやすい要素を持っていることには違いなく、それがトラクションコントロールや横滑り防止装置があるおかげで、ドライバーは気にせず乗れるようになっているだけ、という言い方もできる。
いくら電制デバイスがあっても、タイヤのグリップの限界以上の性能を発揮させることはできないのだから、雪道を安全に走るには、まずはとにかくちゃんと止まれる車速で走るのは当然として、アクセルを強く踏むなど後輪駆動が苦手なことをできるだけしないよう心がけたい。