熱い情熱で「大企業」すら動かした「名開発者」4人と誕生した奇跡のようなクルマ (2/2ページ)

持ってることを誇りに思える

 3台目は、ホンダのスポーツDNAを連綿と受け継いできたシビックタイプR。その5代目、6代目の開発責任者を務めたのがS2000やNSX-R、インテグラタイプRなどのスポーツ運動性能開発を担当してきた柿沼秀樹氏です。

 2017年に登場した5代目は、スポーツカー逆風のなかにあっては成功を収めたモデルでしたが、6代目開発中に大きな壁が立ちはだかります。それが、2021年限りでホンダがF1から撤退したことや、「2040年までに電気自動車と燃料電池車の販売比率を全世界で100%にする」という電動化宣言。柿沼氏はここで開発の手を止めてなるものかと、役員室に乗り込んでタイプRの必要性をこれでもかと訴えたといいます。

 その甲斐あって、2022年についに6代目シビック・タイプRが誕生。究極のFFスポーツを目指し、5代目から受け継いだものをさらに突き詰めて、とくにエンジンについてはピュアエンジンの集大成をつくるという意気込みで、もうこれ以上できることはないというところまで、やりきったと語ります。

 じつはそんな柿沼氏は身銭を切って、社員有志による自己啓発チームでシビックタイプRを駆ってS耐に参戦。5代目のときには、同じクラスのGRヤリスや三菱ランサーエボリューションなどに苦戦を強いられてきましたが、そこで得た改善点を開発にも活かし、6代目での参戦をスタートすると表彰台の常連に。ついに、2023年のクラスチャンピオンを勝ち取るまでになったのです。自身のプライベートでの愛車もシビックタイプRで、まさにMr.タイプRと呼ぶにふさわしい、熱き開発者です。

 4台目は、SUVなのにニュルブルクリン24時間レースにまで参戦して走りを鍛え、スポーツカーのような走りを実現して登場したトヨタC-HR。そろそろ日本での次期型の登場が期待されていますが、そんなC-HRをそこまで走れるSUVに仕上げたのが、元開発担当主査の古場博之氏です。

 C-HRが登場した2016年当時は、どの国のユーザーに聞いてもSUVの走りに満足している人が少なかったため、それを打破するためにフォード・フォーカスやフォルクスワーゲン・ゴルフといった、走行性能に定評のあるモデルをベンチマークにして開発したというから、とてもユニークです。

 そもそも古場氏は、プライベートでサーキットを走り、VITAや86などさまざまなワンメイクレースに参戦している大の走り好き。だからC-HR開発にあたって、ドイツのアウトバーンをはじめ欧州のワインディングを徹底的に走りまわったそう。

 その勢いでニュルブルクリンク24時間レースにも参戦し、完走。もちろん古場氏もつきっきりで帯同し、ドライバー兼エンジニアとして奮闘。そんなSUVは未だかつて聞いたことがないほどです。だからこそ、走りのいいSUVというと真っ先に名前が挙がるくらい、C-HRが走り好きな人の支持を集めたのでしょう。

 ということで、名車の影には熱き名エンジニアあり。この世から面白いクルマ、感動させてくれるクルマがなくならないよう、エンジニアの皆さんの熱意をこれからも応援していきたいですね。


まるも亜希子 MARUMO AKIKO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
MINIクロスオーバー/スズキ・ジムニー
趣味
サプライズ、読書、ホームパーティ、神社仏閣めぐり
好きな有名人
松田聖子、原田マハ、チョコレートプラネット

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