ミッドシップにしてもそう簡単に完全な50:50にならない
そんな時代に新風を吹かせたのが、独のアウトウニオンでフェルディナンド・ポルシェ博士だ。タイヤやシャシーがプアな時代にV型16気筒のハイパワーエンジンが発する大パワーを有効に路面に伝えるために後輪荷重を増やすのが、彼の主目的だった。
同じ考え方でVWビートルやポルシェ911はリヤエンジン方式を採用し、駆動輪のトラクション性能を向上させることを目指したが、やがてコーナリング性能が重要視されるようになると、ミドシップレイアウトのシングルシーターが理論的に理想であることが明らかとなり、現代に通じるフォーミュラカーの原型が生まれてくる。
ミドシップレイアウトとは前後アクスル(車軸)の内側にエンジンを搭載しているレイアウトを総じて言うが、レースマシンとしてはそれだけでは十分ではない。分類上はミドシップに属しても、輪荷重が後輪に集中しているものが多く、そのままミドシップ化しただけでは前後重量配分が最適化されているとは言い難かった。ただミドシップ化することで「Z軸まわりのヨー旋回モーメント」は明らかに小さくなる。
自動車の挙動は車両の重心位置を上下に貫くZ軸を中心に左右に振れる「ヨー」方向の動きを制御することが重要で、ヨーはZ軸を中心に起こるので重量物をZ軸に近い場所に搭載することが重要になる。たとえば前輪の前に重たいエンジンを横置きし、後輪の後ろに大きな燃料タンクを搭載して満タンとして強制的に前後重量配分を50:50に近づけることはできるが、それではZ軸まわりに旋回モーメントは小さくならない。ヨー方向の動きを俊敏にさせるにはZ軸から遠ざかって配置してはならないといえる。
フォーミュラカーのように敏捷性を問われる場合はそうだが、一般的な車両ではあまりに敏捷すぎるとドライバーにとって気が抜けない車両特性となり、疲れてしまうだろう。
そこである程度ヨーの動きをなだめ、扱いやすいハンドリングにする、という主観からフロントエンジン縦置き、リヤトランスアクスルとするフロントミドシップレイアウトがスポーツカーの理想的レイアウトと呼ばれるようになる。ポルシェ944や928が採用し、前出マツダRX-7も「ポルシェ944を参考にした」と当時のマツダは説明していた。
このように前後、左右の重量配分はクルマの運動性能に大きく影響し、高性能車を設計する上では無視できない課題となっている。
ただし、輪荷重だけを前後左右で50:50となるように合わせて「好バランス」と謳うことはできない。じつは秤に載せているときのクルマは静止状態であるが、走行中の旋回過程においてはクルマにはさまざまな慣性力やGがかかってくる。秤に載っているときは停止している「スタティック」な状態での数値であり、重要なのは走行中の「ダイナミック」領域での荷重バランスが求められるからだ。ブレーキングから旋回姿勢へと移行する過程において、輪荷重が大きく変化しないようにサスペンションを設定しなければ重量配分の良さを活かせない。
そういう意味で、走行中のダイナミックバランスに優れた重量配分を達成することは簡単ではない。加速・制動・旋回といった挙動変化のなかでスムースな荷重移動が行えるシャシーとドライビング技術が重要なのだ。
こうした特性はレーシングカーやサーキット走行などの非日常的な走行シーンだけの問題ではない。一般道を走っているときでも、緊急回避や急激な状況変化に即応するためにもダイナミック領域での重量配分に優れた特性であることが理想的だ。シャシーレイアウトだけでなく、シャシーの捻り剛性や縦・横曲げ剛性、サスペンションのアンチダイブやアンチロール、ストローク時のジオメトリー変化などの設計もダイナミック領域での好バランスを保つ上で重要なのだ。