サーキットや雪道をよく走るヘビーユーザーにはオススメ
■LSDの仕組みをざっくり解説
LSDがデフの動きを制限する仕組みというのはある意味単純です。
デフのギヤとは別に、左右の車軸の中間に抵抗を生む機構を追加して、その抵抗の具合に応じてデフの差動を押さえ込むという構造になっています。
その機構にはいくつか種類があります。
・機械(多板クラッチ)式
古くからモータースポーツ用のLSDとして今に至るまで長く使われ続けている方式です。
ギヤ式のデフの外側に複数のクラッチ板を装備して、その圧着の摩擦でデフの差動調整を制限するという方式。メリットは駆動のトルクが強いほど圧着が強くなり、大きな駆動力として伝えられること。
ハイグリップな路面とタイヤで行われるサーキットでのレースや、泥の凸凹の地形を走破するクロスカントリー競技などにはベストマッチ。
欠点は常に差動制限が働いているので、車庫入れなどの小さな切り返しの際などに抵抗になって具合が良くないこと。
切り返しのときにバキバキ音が鳴っているシャコタン車には、100%このタイプのLSDが装着されています。
・トルセン(ヘリカル)式
ザックリ言ってしまうと、噛み合ったギヤ同士の摩擦力や、斜めに歯が切られたギヤがずれる力でギヤの端面が壁面に押し付けられる摩擦で差動に制限を掛ける方式です。
トルクの大きさに比例して差動が制限される度合いが大きくなるので、機械式と同様に大きなトルクが掛かるスポーツ走行には向いています。
欠点は、トルクがあまり掛からない、雪道やぬかるんだ泥の路面など低いμの状態では差動の制限が不十分で安定しづらいという点です。
・ビスカスカップリング式
粘度の高いシリコンオイルが封入されたケースのなかに、左右の車軸に繋がる複数のプレート(円盤)が交互に収まっている構造のLSD。
左右の車軸に繋がっているプレート同士は接触していないので、そのままではいっさい差動の制限はおこなわれませんが、満たされたシリコンオイルの抵抗によって回転の差が制限される仕組みになっています。
ゆっくりじわっと差動する場合はオイルの抵抗は小さいですが、差動の速度が速くなるほど抵抗が大きくなる特性の方式です。
回転感応型のため大きなトルクの伝達には向きませんが、回転差の調整には優れた特性を発揮するため、4輪駆動の前後駆動を調整するセンターデフとしていまも使われています。
■市販車にLSDは必要なの?
これはケースバイケースです。
雪が降らない地域で、ぬかるんだ路面もめったに通らない都市部に住んでいる人は、LSDは不要だと言っていいでしょう。
これが、サーキットのスポーツ走行や山道をハイペースに走るのが好きで、月に何度か走りに行くという場合はLSDの装着をオススメします。種類は機械式がいいでしょう。
また、ウインタースポーツが好きで、毎週のように雪山にいくという人や、雪の多い地域に住んでいるという人にも、LSDの装着をオススメしたいです。
慣れている人で除雪された道を走るのがほとんどという場合は、それほどLSDの恩恵を感じないというケースもあると思いますが、雪が積もった状態の道を頻繁に通る場合は、LSDを装着した方がスタックの心配は少なくなると思われます。
その場合、走り方や好みで分かれると思いますが、スタックを防止する目的なら機械式がベスト。
ただ、サーキットを走るような高イニシャルの設定だとほぼデフロック状態で逆に扱いづらいでしょうから、マイルドな設定の純正LSDや、市販の物を低イニシャルにして装着すると良いと思います。トルセン式やビスカスタイプは雪道でしっかり効かないという話もよく聞きますが、オープンデフよりはしっかり駆動が伝わると思いますので、装着がマイナスになることはないでしょう。
このようにLSDというのはれっきとしたチューニングパーツですので、向かない用途に装着してしまうと逆に不具合が表に出てしまいます。
例えばGR86のようなスポーツ車にLSDを装着すること自体に違和感はありませんが、ほぼほぼ都市部の街乗りしかしないようなら宝の持ち腐れ、というよりも、日常のちょっとした操作や燃費などにわずかな支障が出ている可能性があるので、むしろマイナスと言えます。
逆に、雪深いところでオープンデフで不自由なく走っていた人がLSDを導入したときに「なんでいままでコレを使わなかったんやぁ〜」と嘆くシーンも十分あり得ます。
滑る路面だから、サーキットだから、必ずLSDが必要だとは限りませんが、用途を見直してLSDの効果を見極めて導入すれば、きっと走りの確実性が高められるでしょう。