ドッチもセダンなのになぜ設定? MIRAIがあるのにクラウンセダンにも燃料電池車をラインアップした理由 (2/2ページ)

FCEVのさらなる普及には知名度のあるクラウンがピッタリ

 クラウンセダンの開発では、先代クラウンやカムリをベースにするアイディアもあったが、燃料電池車のMIRAIを基本にした。そのために、パワーユニットも直列4気筒2.5リッターハイブリッドと併せて、燃料電池車が用意されている。

 クラウンセダンの価格は、ハイブリッドは730万円と高めだが、燃料電池車は830万円で100万円の上乗せに抑えた。しかも燃料電池車には経済産業省から136万3000円の補助金が交付される。これを差し引くと、クラウンセダンの燃料電池車はハイブリッドよりも安く手に入るのだ。自治体によっては、経済産業省とは別に補助金を交付するから、燃料電池車はますます安価になる。

 この価格について開発者に尋ねると、「クラウンでは燃料電池車を割安に設定している。積極的に販売していきたい」と返答された。

 この意図は、クラウンの燃料電池車(グレードはZのみ)とMIRAIの価格を比べるとわかる。両車の燃料電池ユニットやプラットフォームは基本的に共通だが、クラウンZは装備をさらに充実させた。MIRAI Z エクゼクティブパッケージ(817万2000円)に、ITSコネクト+ドライブレコーダー+リヤフォグランプをオプション装着した約825万円よりも、さらに多くの装備を採用するからだ。クラウン燃料電池車の価格が830万円であれば、むしろ割安と受け取られる。

 そして、クラウンセダンはホイールベース(前輪と後輪の間隔)が3000mmで、MIRAIを80mm上まわり、後席の足もと空間も広い。身長170cmの大人4名が乗車したとき、後席に座る乗員の膝先空間は、MIRAIは握りコブシふたつ分だが、クラウンセダンはふたつ半に達する。クラウンセダンはMIRAI以上にゆったりと座れる。

 運転感覚も異なり、動力性能はほぼ同等だが、走行安定性はクラウンセダンが優れている。カーブを曲がったり車線を変更する時に、クラウンセダンはMIRAIよりもボディの傾き方が抑えられ、4輪の接地性も優れている。

 以前の燃料電池車は、目新しい特別な技術だったことからMIRAIという専用車に搭載したが、いまの段階ではさらに普及させたい。そのためには、燃料電池車の需要が多い法人や自治体向けのクラウンセダンに搭載すると親和性も高まる。トヨタの燃料電池車は、早くも普及段階に入り、特別感ではなく馴染みやすいクラウンに搭載することになった。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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