理屈ではいいことばかりに感じるも実際は乗りにくかった
これらの結果、ワインディングや発進・車庫入れでは少ないステアリング操作量でレスポンスよくクルマが曲がり、大舵角が必要なタイトコーナーや緊急回避時は旋回中の切り増しがしやすくなり危険回避性能が向上。高速域かつ小舵角時は標準仕様と変わらない特性のため、高速道路でのレーンチェンジや旋回時は安定した操作が可能、とホンダは主張していたが……。
「とにもかくにも乗りにくい」、これが筆者の偽らざる本音である。
いまとなっては一般化した感のあるフラットボトムステアリングホイールと、1.4回転という極小のロックトゥロックは、決して好ましくはないものの、慣れて我慢することはできる。
しかし、車速と舵角に応じてステアリングギヤレシオが無段階に変化するのは、どれほど長く乗り続けても慣れることはなく我慢することもできなかった。
というのも、ステアリング操作量と実際の前輪切れ角、またヨーの出方が一定かつリニアではないどころか、状況に応じて常に変化するため、車両の挙動に応じた適切な操舵角の先読みがほぼ不可能に近い。また、旋回中に舵角を一定にキープするのも難しいからだ。
S2000は標準仕様も少なからずクイックなハンドリング特性の持ち主だが、それでも舵角に対するヨーの出方はリニアで、また旋回中の修正舵もほぼ必要としないため、速度域を問わず安心してコーナリングを楽しむことができる。
しかしVGSは、そうしたS2000の美点を完全に台無しにする、およそスポーツカーには不向きなメカニズムにほかならない。
そのため筆者は、ホンダベルノ系ディーラー在籍時、S2000の標準仕様は熱心に勧めても、タイプVを自分から売り込んだことは一度もない。また、3年弱という短い在籍期間だったが、S2000を5台販売したなかでタイプVは1台に留まっている。