10リッター単気筒で廃油でも走るってどういうこと!? ドイツに「ブルドック」と呼ばれる怪物トラクターが存在した (2/2ページ)

燃える油なら”なんでも”燃料にしてOK!

 また、ヒットの要因は丈夫で長持ちというだけではありませんでした。アクロイドユニットは主に重油を燃料としていたのですが、じつは「燃える油ならたいていのもので動く」という隠れたメリットがあったのです。

 たとえば、灯油、植物油、あるいはクレオソート(タール蒸留後の余りもの、主に防腐剤などになるもの)、果ては、アクロイドエンジン使用後の廃油まで再利用可能というオールマイティぶり。経済性を重視する農家はもちろん、燃料供給もままならない奥地などで引っ張りだこになるわけです。

 10リッターエンジンを搭載したD2531は、ブルドッグシリーズの最高峰ゆえに、トラクターにありがちなオープンシートではなく、一見するとクルマのようなキャビン、フロントスクリーン、さらにはフェンダーまで装備しています。カタログによると、アタッチメントを利用するトラクターとしての機能だけでなく、30トンまでの牽引トレーラーとしても利用可能と謳っており、汎用性の高さもセールスポイントだったに違いありません。

 ちなみに、ブルドッグのような一世を風靡するモデルを作っていたにもかかわらず、ランツ社は1956年にはアメリカの大手農機具メーカー、ジョン・ディア社に買収されています。経緯は詳らかにされていませんが、第二次大戦後の復興期も乗り越えてきたランツだけに、ちょっと残念な末路かもしれません。

 が、ジョン・ディア傘下であろうと、ドイツ国内にランツ社はしっかり残っており、現在も同社が生産したトラクターの修理、レストアを全面的に担っているとのこと。むろん、D2531の10リッターエンジンについてもオーバーホールを行っており、これまたフェラーリのクラシケ・ブランチかのように完全解体からスタートするという徹底ぶり。

 レストア後も博物館に飾るわけでなく、再び農作業に赴くというのがブルドッグのカッコよさ、ひいては人気の秘訣といえるのではないでしょうか。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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