太陽光さえあればどこにでも行ける
そんな彼らの最新作となったステラ・テラは、ソーラーカーとしては極めてレアなオフロードモデル。太陽光さえあれば充電ステーションがいらないばかりか、クルマが通れる道すらいらないという、斬新なコンセプトを掲げています。
「既存のインフラに依存しないオフロード車の構築には、まったく新しい課題がありました。オフロードの過酷な条件に対応できるだけでなく、太陽の光を動力源とするのに十分な効率と軽さを維持する必要があったのです」。
そう語るのは、ソーラーチーム・アイントホーフェンのチームマネージャーであるヴィセ・ボスさん。彼もまた22名いる学生のうちのひとりで、電機・電子工学系をはじめとしたさまざまなエキスパート達のリーダーです。
ステラ・テラの特徴はご覧の通り、フロントスクリーンからリヤエンドに続く涙滴型の曲線でしょう。アニメ映画に出てきそうなプロポーションですが、空力性能はもちろん、太陽光パネルの発電効率も緻密に計算されたもの。歴代のステラシリーズに一脈通じるもので、蓄積された知見の高さもうかがえるところ。
そして、車重1200kgという比較的軽量な車重を実現できたのは、数々の複合素材を駆使したからではないでしょうか。いまやレース用ソーラーカーはフルカーボンボディというのがデフォルト。チーム・アイントホーフェンのスポンサーにもそうした企業の名が連なっています。
さらに、驚くべきはオフロード向けサスペンションを大学生たちが独自に作り上げたことでしょう。ソーラーカーには精密な電子部品も数多く搭載されているため、舗装路を走る際の振動でもトラブルが起こりがち。オーストラリアのレースでも、道路の継ぎ目などを越えた衝撃で車体や機材にダメージを受けてリタイヤというケースが散見できます。このあたりも、チーム・アイントホーフェンの経験値が活きていることは言うまでもないでしょう。
ステラ・テラは設計上、最高速度145km/h、晴天時の一般路で710km、オフロードで550kmの走行が可能とされています。とはいえ、実際の走行で理論通りに走れるかは神のみぞ知る。ということで、彼らはテストとしてサハラ砂漠を含めたモロッコを1000km走行することに!
車内には非常用としてリチウムイオンバッテリーが搭載されたものの、行く手には充電ステーションなどあるはずもなく、まさに大冒険といったところ。先のボスさんたちが危惧したのは、ステラ・テラが実際に悪路を走った際の効率で、予想は「正直、厳しい」ものでした。
が、実際は電力消費率が予想より30%も低く、ステラ・テラはソーラーエネルギーのみ、バッテリーに頼ることもなくモロッコの悪路を走破。ひとりダカールラリーみたいな挑戦に、見事打ち勝ったという次第です。
まさしく、持続可能な次世代のモビリティと称賛されるべきですが、じつは課題も残っています。ずばり、ソーラーパネルのコストで、今回のステラ・テラが使用したような高効率パネルはまだまだ高額ということ。
もっとも、裏を返せばパネルのコストさえクリアできれば、ステラ・テラほど魅力的なクルマはありません。チーム・アイントホーフェンを応援したくなる気持ちがムクムクとわいてきたのは、決して筆者だけではないでしょう。