愛車の車内は貴重な仕事場でもある
そこで、クルマにとって重要になのが、居住空間の効用だ。クルマは動く個室であり、ひとりで乗車しているときは、たとえ街なかの渋滞にハマっていても自分の周囲には誰もいない。混雑した街なかから高速道路まで、走る環境が変わっても、車内は常に快適で平和だ。車外が吹雪でも車内は暖かく、この快適性と安楽さは、モーターサイクルでは得難いクルマならではの特徴になる。
つまり、クルマの魅力はこの二面性にあると思う。私の場合であれば、たとえば新型車の報道試乗会には、自分のクルマで出かける。箱根の山中にあるホテルで開催されるときは、ちょっと積極的な気分で朝の峠道を走る。このときは、愛車が期待に応えて一体化するパワードスーツ感覚を味わえる。気分は一層積極的になり、取材にも力が入る。
そして、新型車の取材を終えた夕方。体は疲れ、季節によっては気温も下がる。もはや峠道を積極的に走る気分ではない。そのときは、愛車が私を優しく癒してくれる。
高速道路に入ると、夜の静かなパーキングエリアに駐車して(騒々しい大きなサービスエリアではない)、室内灯をつけ、改めて試乗のメモを取る。今日の試乗をもう一度思い出して、見過ごしていたことがないかを確認する。
そして、試乗した新型車にどのような長所と短所があり、いかなるユーザーに適するのか、ライバル車と比較して、さらに日本で売られるクルマ全体のなかで、どのような位置付けにあるのかを考える。少なくとも1時間は、今日試乗した、いや出会えた新型車に思いを巡らす。そして、自分なりの結論を出す。この作業を怠ると、後々その車種に対する理解が浅くなってしまうのだ。
この作業は、なぜか喫茶店や自宅で行うとノリが悪い。クルマに関する作業だからなのか、愛車のなかが一番集中できる。
こんな風にクルマを使っているためか、私は愛車に文字どおり深い愛着を持ってしまう。だからいままでの愛車は、すべて最後まで使い、看取っている。必ずしも正しいクルマの使い方とは思わないが、パワードスーツになったり、癒してくれたり、仕事場になったりするのだから簡単には離れられない。
仕事的にはリセールバリューの原稿も書くけれど、個人的には、愛車と別れるときのことなんか、絶対に考えたくない。