【試乗】これが令和の時代のロータリーの生きる道! マツダMX-30ロータリーEVにワクワクの「可能性」を見た!! (2/2ページ)

今後のロータリーエンジンの動向に注目

 早速、クルマに乗り込みスタート&ストップボタンを押し、システムを起動してみる。

 バッテリーがチャージしていればエンジンが直ちに始動することはなく、必要条件が揃わないとロータリーエンジンのサウンドを聴くことはできない。ちなみにメンテナンスモードでエンジンを始動させれば、停止状態でもエンジンをかけられるが、エンジンフードを開けて聞こえるエンジン音は、 かつてのロータリーエンジンのような個性的なものではなく、ややメカニカルノイズを伴う音質であった。これはシングルローターで1回転あたり1度の爆発による音なので、いわゆる個性的なハーモニカのようなロータリーサウンドとはなっていないようだ。

 試乗車はバッテリーが十分に充電されているので、そのまま走り出す。基本的にはシリーズハイブリッドとなっているので、ロータリーエンジンの駆動力が直接車輪に伝わることはない。エンジンと車軸は完全に切り離されていて、ロータリーエンジンが稼働するのはジェネレーターモーターをまわすときだけに限られる。また、ジェネレーターモーターを利用してエンジンを始動させることができるので、一般的なセルモーターは持たず、 エンジンの始動は極めて静かにドライバーが気づかないうちに行われている。

 電動モーターの駆動制御は極めてジェントルで、FF前輪駆動ということもあり扱いやすい特性にうまく調教されている。モーター自体はBEVのMX-30 EVとは異なる仕様であるようで、パワースペックは最高出力170馬力/9000rpm、最大トル260Nmは0-4481rpmで引き出されるようになっている。

 一方で、ロータリーエンジンの最高出力は72馬力/4500rpm、最大トルクは112Nm/4500rpmで始動要求に応じ2300回転から始動し、4500回転までの回転を行き来して稼働していて、それ以上まわることはない。 かつて7000回転までストレスなくまわったロータリーエンジンとは一線を画す仕様となっているのだ。スポーツカー用のエンジンとしてのポジションから、今回は発電機を回すことに特化した中低速のみでまわる効率的なエンジンとして生まれ変わっているのである。

 MX-30 EVのパワートレインレイアウトでは、 エンジンルームの左右重量バランスが悪く、タイヤの接地荷重が左右でアンバランスだったためトルクステアなどが感じられたが、今回ロータリーエンジンとジェネレーターユニットが組み込まれたことで、左右ウエイトバランスが向上している。

 また、車両重量としては駆動バッテリーが半分になったものの、燃料タンクの追加や排気管などの取りまわしなどでトータルでは130kgほどの重量増となっているようだが、 それによって動力性能が大幅に劣るようなことはもちろんない。

 一般道、市街地、それから高速道路の流入などで駆動用モーターが引き出す力は必要十分以上にあり、パワー不足を感じることはもちろんない。

 ドライブモードはEVモード、ノーマルモード、チャージモードは100%から 10%刻みでSOC(充電率)を設定することができる。たとえば、バッテリーを50%ほど使用したあとにチャージモードでSOC70%に設定すれば、バッテリー充電量が70%になるまでロータリーエンジンが稼働し、充電されるということになる。

 一方、ノーマルモードではハイブリッドモードとして、効率の良い制御が行われるわけだが、基本的にはSOCでバッテリー残量を45%にプレ設定されていて、その前後で電気を使い、また充電するという動作を繰り返してハイブリッド走行をすることになる

 EVモードでは約100kmまで走行することができ、 バッテリーが完全に放電された状態になると、表示はEVモードのままだが、レンジエクステンダーとしてエンジンが稼働し、その発電力によって駆動用モーターが稼動させられるという仕組みだ。

 MX-30PHEVはV2HやV2Lにも対応しており、V2Lでは1500Wまでの電源コンセントとして機能させることができる。V2Hでは、満充電時であれば一般家庭でおよそ1日分の電力を供給することができ、ロータリーエンジンの発電機能を使い、50リッターのタンク容量でガソリン満タンの場合、約9日間の一般家庭への給電が可能となる。こうした機能は災害時など緊急の予備電源車としても大いに役に立ことで、徐々にその重要さが注目されているのである。

 また、こうした機能を持つことで国や自治体の補助金なども得られ、非常に購入しやすい 環境設定がなされてきている。

 乗り味や走り心地に関して言うと、やや路面変化に対してロードノイズが大きく感じる部分がある。

 観音開きドアは側突対応するためドア自体が非常に重く、またその重いドアを取り付けるためヒンジ類や車体側も強化され、重さを感じさせられるのだ。遮音材などはなるべく省略化され、コストダウンと軽量化が図られているとも言える。

 ロードノイズに対しては、かなり耳障りな状況が多々感じられた。観音開きドアの利便性については非常に有益だと考えているが、ただ、後席から降りようとした際には、前席ドアを後席乗員が自分で開けなければならない。本来であれば後席寄りの部分にドアオープンのハンドルをもうひとつ追加で設けるべきだが、それが実現されていないので、 後席からの降車時に苦労させられてしまうのは相変わらずである。

 ロータリーエンジンのサウンドは充電モードでしか聞くことができず、またアクセル全開の加速を試みるとエンジンも稼働して最大出力を維持しようとするが、 そのときのサウンドはなかなか官能的で、心の琴線に触れるものであったが、通常のEVモードで聞こえるエンジン音は、音質や音色に対しての作り込みがなされているとは言えないものだった。

 車外にいてもロータリーエンジンの音はほぼ聞こえず、エンジン音が気になるような場面はないのだが、逆に言うとロータリーエンジン復活を喜ぶユーザーにとっては物足りなく残念に感じるところだろう。

 今後はロータリーエンジンを発電用としてだけでなく、ハイブリッドの一部としてフロントに2〜3ローターと駆動用モーターを直結して縦置きし、後輪駆動とするようなスポーティモデルへの進化を期待したいとこだ。日本モビリティショーに参考出品展示されていたマツダの新型コンセプトカー「アイコニックSP」のような組み合わせも可能となることを考えずにはいられなかった。

 いずれにしても、ロータリーエンジンの長年の実績と技術、エンジニアリングを絶やすことなく今後も継続させていく取り組みはマツダにしかできないので、ぜひともこのMX-30PHEVを、またロータリーエンジンを大切に育てていってもらいたいと思っている。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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