日本人の就業意識に甘えた結果が公共機関の運転士不足を招いた
一方でバス運転士もその苦労の割には収入が少なくなかなか担い手が集まらないで困っている。
こちらは、バス愛が深すぎることも労働環境や収入面での改善がなかなか進まない要因のひとつともいえるかもしれない。タクシーに比べバス運転士は、「バスを運転したい」という気持ちが大きすぎてバス運転士になったという人を筆者は多く見てきた。それこそ親子二代で同じ事業者で運転士として働いているケースもそれほど珍しいことでもない。
筆者もかつては自動車専門誌の編集部にいたので気持ちはわかるのだが、好きなことを職業として選ぶと、ついつい収入は二の次という気持ちに陥りやすくなる。日々好きなものに囲まれていると、それが仕事とは思えてこないのである。となると、そこにいるだけで十分という気持ちにもなる。
もちろん結婚して家庭を持てばそれどころではなくなるが、心の奥底にはいつまでも残っているはずである。
歴史のある老舗バス事業者ほど、バス愛の強い人が多いというのはあながち筆者の勝手な印象でもないようだ。新興バス事業者はあくまで業界内での話だが、より収入などの待遇面を厚くして人材確保を進める傾向がある。業界未経験者も厚待遇ということでめざしてくることもあるのだが、そのような新興バス事業者では、「あくまで仕事」と割り切っている運転士が目立つ印象を強く受ける。
バスもタクシーも生活の移動手段として公益性の高い業種といえる。とくに市内路線バスを運行している事業者の多くはその意識が強い。そのためもあり、利用者負担を重くしてまで思い切った運賃値上げというものもなかなかできないこともあるようだ。
日本人独特の就業意識がとくに目立つ旅客運送業界。われわれ利用者はそのような意識に甘えてきてしまったのかもしれない。そしていま、タクシー運転士の深刻な不足による稼働台数不足、バス運転士の激減による路線バスの減便や路線廃止などを招いてしまったのかもしれない。