この記事をまとめると
■埼玉県のタクシー初乗り運賃が値上げされたが、世界中で交通機関の料金が値上がりしている
■交通機関料金の値上がりの一方で、タクシー運転士の給料はそれほど上がっていない
■賃金にこだわらない日本独特の就業意識がタクシーの稼働台数不足、路線バスの減便や路線廃止を招いた
物価は上がっても賃金は上がっていないタクシー運転士
先日、埼玉県さいたま市でタクシーに乗ると、運転士から「この地域のタクシー料金が値上げになりました、お客様には負担が増えて申し訳ありません」と説明を受けた。さいたま市の属するエリアでは、11月20日より初乗り料金は500円で変わらないのだが、初乗り距離が1.23kmから1.121kmとなり、加算運賃も同じく100円なのだが、261mごとから236mごとへ加算と改定になり、無線配車などで乗車地へ向かうときの迎車回送料金も300円から500円となった。
あまり目に見えない改定とはいえ、さいたま市は流し営業(街を流して乗車希望の人がいたら乗せる)のほとんどない地域で、駅前などで客待ちするか無線あるいは配車アプリでの配車要請がおもな営業スタイルとなる地域なので、迎車回送料金の改定はこの地域ではかなり大きいといえるだろう。
乗り合わせた運転士は値上げについて申し訳ないと語っていたが、物価高騰や労働環境改善のためとの理由なのであるから、利用者のひとりとして筆者は「仕方ないですね」と返答した。
アメリカほどの狂乱的なレベルではなくとも、日本もあらゆるものの値段が上がり続けている。しかし、アメリカほど給料があがることはない。2023年9月にアメリカを訪れ、全米チェーンの中華のファストフード店に入ると求人広告が貼ってあった。するとエリアマネージャーで年収約2000万円、アルバイトとして入店当初は年収約600万円と書かれていて驚いてしまった。
給料が上がって欲しいという気持ちは日本人であっても誰もが思っている願望に変わりはない。ただ、自分たちの扱っている商品や提供するサービスを値上げしてまでもとなると、そこは世界でもまれにみる良い人である日本人はどこか引け目を感じてしまうのも、なかなか賃上げの進まない理由のひとつなのかもしれない。
タクシー運転士では、運転士年齢の高齢化も要因のひとつなのかもしれない。そもそも現役子育て世代に比べれば、教育費など子育てにかかる支出負担が少ないのが一般的なのだから、その分は家計支出も少なくなるだろう。また、いままでの流れではかつて別業種で働き続け定年退職を迎えたものの、心身ともにまだいけるとのことで、何か働ける仕事をということでタクシー運転士になる人も多かった。
ある運転士は「定年退職したあと同じ会社で嘱託社員として働こうと思ったら、やることはほとんど変わらないのに給料が思い切り下がったので、辞めて運転士になった」という話も聞いたことがある。とはいうものの、現役子育て世代みたいに切迫感の強いなか稼がなければならないという状況でもないので、賃上げに固執しない雰囲気というものが醸成されてしまったのかもしれない。